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雪の塔
ゆきのとう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集1」 ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年5月22日
初出「九州日報」1923(大正12)年2月
入力者柴田卓治
校正者もりみつじゅんじ
公開 / 更新2000-03-06 / 2014-09-17
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 玉雄と照子は兄妹で毎日仲よく連れ立って、山を越えて向うの学校に通って、帰りも仲よく一所になって帰って来ました。
 或る日、二人はいつもの通り学校から手を引き合って、唱歌をうたいながら帰りがけ山道にかかりますと、真暗な空から雪がチラチラ降り出して、見ている内に道が真白になりました。
 二人は唱歌を止めて急ぎましたが、雪はだんだん激しくなるばかり。しまいにはあとも先も見えず、どこが道やらわからなくなり、だんだん山深く迷い入って行きました。
 そのうちに日が暮れて、寒い風がヒューヒュー吹きはじめました。二人はお腹が空いた上に寒さに凍えて、
「お父さん」
「お母さん」
 と泣き叫びながら肩を組んで行きましたが、とうとう二人とも雪で動けなくなって、雪の上に座ってしまいました。もう泣く声も出ず息も凍ってしまいそうで、只夢のような気持になりました。
 その時に玉雄は、林の向うを風につれて雲のように吹き渦巻く雪の切れ目切れ目に、一つの高い高い真白な塔のようなものが天まで達く位立っているのを見付けました。その塔の処々には小さな窓があって、赤や青や黄色や紫の美しい光がさしております。
 玉雄は学校に行く途中、こんな塔が立っているのを一度も見た事がありませんでした。夢ではないかと眼をこすって見ましたが、矢張り本当に雪の中に立っているようです。玉雄は急に照子の肩をゆすって、
「照ちゃん、御覧よ。ホラあんな高い塔が……あれ、窓から美しい光がさして……さあ早く行きましょうよ、あそこまで」
 けれども可哀そうに照子はもう死んだように横になって、只ぼんやり玉雄の顔を見ているばかりでした。
 玉雄は一生懸命で照子を抱え起して、やっと背中に背負い上げて、膝まで来る雪の中を一足一足塔の方へ近寄りましたが、すぐ近くに見える塔がなかなか遠くて、いくら歩いても近寄られません。そのうちに玉雄は力が尽きて、
「助けて下さい」
 と一声高く叫ぶと、そのまま照子と一所に雪の中に打ち倒れて了いました。
 その声が聞こえたのかどうだかはわかりませんが、玉雄がたおれると間もなく、向うの白い高い塔の一番下の処の入り口が開いて、そこから大勢の人が出て来ました。見ると、それはどれもこれも身体に薄い白い着物たった一枚着た若いお姫様のような人ばかりで、素足で雪の中を舞い踊りながら吹きまわる嵐につれて歌をうたっています。
「ふれふれ雪よ 春は近い
 ふれふれ雪よ 冬はおわる
 ふれふれ真白に ふり積れ雪よ
 吹け吹け風よ 吹き巻け風よ
 一夜のうちに 雪の塔を作れ
 冬と春とが わかれを告げる
 名残のかたみ 雪の塔をつくれ
 冬は行く 春は来る
 ふれふれ 雪よ
 春は来る 冬は行く
 吹け吹け 風よ
 ふれふれ 吹け吹け
 吹き渦 巻いて
 天まで遠く 雪の塔を作れ
 世界の人も 獣も鳥も
 野山の草木も 気づかぬうちに…

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