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蛇の花嫁
へびのはなよめ
作品ID967
著者大手 拓次
文字遣い新字旧仮名
底本 「世界の詩28 大手拓次詩集」 彌生書房
1965(昭和40)年10月25日
入力者湯地光弘
校正者瀬戸さえ子
公開 / 更新1999-09-30 / 2017-12-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

  しろきもの

しろきもの
ゆくりなく 心のうへをただよへり

ながるるひまもなく
あはきがなかに なほあはき
かすかなる 鳥の啼音のつらなれり


  ほのあをき貝

ほのあをき貝をもて
わがただよへる心を をさめよ
らうたけし ほのあをき貝をもて
わがかなしみを をさめよ


  相見ざる日

こころ おもくして
うなだれてのみ あるものを
身をつつむ ひぐらし色のこゑ


  さだかならぬ姿

ありなしの すがたなればや
きみみえず
うすきひかりの ながれきて
わがながしめを よびいづる


  うたの心

あめは こずゑのなかにあり
うたはざる 歌のこころの
ゆふぐれに ときめけり


  秋の日はうすくして

秋の日は うすくして
衣に透けり
秋の日は
みえざるごとく とほくして
思ひのかげを うごかせり


  二人静

汝がこゑは
月の夜にゆるる
二人静のはな


  心のかげのこゑ

ただよひゆくもの
わが心のなかに
ただよひゆくは
ゆふぐれのひかりをあびて おとづるる
汝がこころの かげのこゑ


  ゆめ

いづことも わかねども
そのかたち わすれがたかり
そのいろの わすれがたかり

   *

あはあはと にほひのこれば
絶えせざる おもひはるけし


  遠く思はるる日

汝がすがた とほくして
空にうつれる葉のごとく
さびしさは わが胸に波をうがてり


  すぎし影

病めるとき
心のなかにすぎゆきし
かげともあらぬ 影のかげ

その すぎゆきしにほひをば
ひそかに ひそかに
はぐくめり


  ゆふぐれ

みぞれするかや
このゆふぐれの日に
こゑもなく
ひとびとの 行き交へり


  しめらへる花

くれなゐの
花のさきけり
夜の潮 みちくるときに
しめらひの花の
ひとつさきけり


  あをき影

あはれ あはれ
眼はとざされて みづにかくれし
なにものも みえわかず
ひとつ ひとつ あをき影あり


  しろき花

むなしき おゆびもて
まさぐれば
しろき花 ゆるるがごとし
暮れなやむ ゆふぐれのとき


  ともしびの揺れの如く

とほき影の つながりて
この あしたの空につたはりくる
きえがての思ひ うごきぬ
ともしびの
たわわなる ゆれのごとくに


  悲しみは去らず

かなしみは かなたへ去らず
日影のごとく うつろへど
はてしなき いのちのなかに たそがるる


  水に浮く花

みづのなかに うかべる花
こゑをはなてり


  あをきまぼろし

かぎりなく ひろごりゆく
あをき手のまぼろし
あをき手のまぼろし
げにもさみしき
あをきまぼろし
うつつなき 花をうがちて
こころむなしく しらべをおとす


  小鳥の如き溜息

ほのほは あをき水にぬれ
かたちを消して
そことなく みだれつつあり
ああ しろき…

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