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世之助の話
よのすけのはなし
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」 筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日
初出「新小説」1918(大正7)年4月
入力者j.utiyama
校正者柳沢成雄
公開 / 更新1998-10-11 / 2014-09-17
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



友だち 処でね、一つ承りたい事があるんだが。
世之助 何だい。馬鹿に改まつて。
友だち それがさ。今日はふだんとちがつて、君が近々に伊豆の何とか云ふ港から船を出して、女護ヶ島へ渡らうと云ふ、その名残りの酒宴だらう。
世之助 さうさ。
友だち だから、こんな事を云ひ出すのは、何だか一座の興を殺ぐやうな気がして、太夫の手前も、聊恐縮なんだがね。
世之助 そんならよせばいいぢやないか。
友だち 処が、よせないね。よせる位なら、始から云ひ出しはしない。
世之助 ぢや話すさ。
友だち それがさ、さう中々簡単には行かない訳がある。
世之助 何故?
友だち 尋く方も、尋かれる方も、あんまり難有い事ぢやないからね。尤も君が愈いいと云へば、私も度胸を据ゑて、承る事にするが。
世之助 何だい、一体。
友だち まあさ、君は何だと思ふ。
世之助 ぢれつたい男だな。何だつて云へば。
友だち いやさう開き直られると、反つて云ひ出しにくいがね。つまり何さ。――この頃西鶴が書いた本で見ると、君は七つの時から女を知つて……、
世之助 おい、おい、まさか意見をする気ぢやあるまいね。
友だち 大丈夫、叔父さんがまだ若すぎる。――そこで、六十歳の今日まで、三千七百四十二人の女に戯れ……
世之助 こいつはちと手きびしいな。
友だち まあさ、三千七百四十二人の女に戯れ、七百二十五人の少人を弄んだと云ふ事だが、あれは君、ほんたうかい。
世之助 ほんたうだよ。ほんたうだが、精々お手柔かに願ひたいな。
友だち それが、どうも私には少し真にうけられないんだね。いくら何だつて君、三千七百四十二人は多すぎるよ。
世之助 成程ね。
友だち いくら君を尊敬した上でもだよ。
世之助 ぢや勝手に割引して置くさ。――太夫が笑つてゐるぜ。
友だち いくら太夫が笑つてゐても、この儘にはすまされない。白状すればよし、さもなければ、――
世之助 盛りつぶすか。そいつは御免を蒙らう。何もそんなにむづかしい事ぢやない。唯、私の算盤が、君のと少しちがつてゐるだけなんだ。
友だち ははあ、すると一桁狂つたと云ふ次第かい。
世之助 いいえ。
友だち ぢや――おい、どつちがぢれつたい男だつけ。
世之助 だが君も亦、つまらない事を気にしたもんだ。
友だち 気にするつて訳ぢやないが、私だつて男だらうぢやないか。何割引くか判然しない中は首を切られても、引きさがらない。
世之助 困つた男だな。それならお名残りに一つ、私の算盤のとり方を話さうか。――おい、加賀節はしばらく見合せだ。その祐善の絵のある扇をこつちへよこしてくれ。それから、誰か蝋燭の心を切つて貰ひたいな。
友だち いやに大袈裟だぜ――かう静になつて見ると、何だか桜もさむいやうだ。
世之助 ぢや、始めるがね。勿論唯一例を話すだけなんだから、どうかそのつもりに願ひたい。



 もう彼是…

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