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田村将軍
たむらしょうぐん
作品ID18382
著者楠山 正雄
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の英雄伝説」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年6月10日
入力者鈴木厚司
校正者今井忠夫
公開 / 更新2004-02-08 / 2014-09-18
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     一

 京都に行ったことのある人は、きっとそこの清水の観音様にお参りをして、あの高い舞台の上から目の下の京都の町をながめ、それからその向こうに青々と霞んでいる御所の松林をはるかに拝んだに違いありません。また後ろをふり返ると御堂の上にのしかかるようにそびえている東山のはるかのてっぺんに、真っ黒に繁った杉の木立ちがぬっと顔を出しているのを見たに違いありません。この京都の町を一目に見晴らす高い山の上のお墓に埋められている人は、坂上田村麻呂という昔の名高い将軍です。そしてそのなきがらを埋めたお墓を将軍塚といって、千何年という長い間京都の鎮守の神様のように崇められて、何か世の中に災いの起こる時には、きっと将軍塚が音をたてて動き出すといい伝えているのでございます。
 坂上田村麻呂は今から千年余りも昔、桓武天皇が京都にはじめて御所をお造りになったころ、天子さまのお供をして奈良の都から京の都へ移って来たうちの一人でした。背の高さが五尺八寸に胸の厚さが一尺二寸、巨人のような大男でございました。そして熊鷹のようなこわい目をして、鉄の針を植えたようなひげがいっぱい顔に生えていました。それから体の重みが六十四斤もあって、怒って力をうんと入れると、その四倍も重くなるといわれていました。それでどんな荒えびすでも、虎狼のような猛獣でも、田村麻呂に一目にらまれると、たちまち一縮みに縮みあがるというほどでした。その代り機嫌よくにこにこしている時は、三つ四つの子供もなついて、ひざに抱かれてすやすやと眠るというほどの人でした。ですから部下の兵士たちも田村麻呂を慕いきって、そのためには火水の中にもとび込むことをいといませんでした。
 田村麻呂はそんなに強い人でしたけれど、またたいそう心のやさしい人で、人並みはずれて信心深く、いつも清水の観音様にかかさずお参りをして、武運を祈っておりました。

     二

 ある時奥州の荒えびすで高丸というものが謀反を起こしました。天子さまの御命令を少しも聞かないばかりでなく、都からさし向けてある役人を攻めて斬り殺したり、人民の物をかすめて、まるで王様のような勢いをふるっておりました。天子さまはたいそう御心配になって、度々兵隊をおくって高丸をお討たせになりましたが、いつも向こうの勢いが強くって、そのたんびに負けて逃げて帰って来ました。そこでこの上はもう田村麻呂をやるほかはないというので、いよいよ田村麻呂を大将にして、奥州へ出陣させることになりました。
 天子さまの仰せ付けを受けますと、田村麻呂はかしこまって、さっそく兵隊を揃える手はずをしました。いよいよ出陣の支度ができ上がって、京都を立とうとする朝、田村麻呂はいつものとおり清水の観音様にお参りをして、
「どうぞこんどの戦に首尾よく勝って、天子さまの御心配の解けますように。」
 と熱心にお祈りをして、奥…

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