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月夜のでんしんばしら
つきよのでんしんばしら
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「宮沢賢治全集8」 ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年1月28日
初出「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社、1924(大正13)年12月1日
入力者土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2005-03-29 / 2014-09-18
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ある晩、恭一はざうりをはいて、すたすた鉄道線路の横の平らなところをあるいて居りました。
 たしかにこれは罰金です。おまけにもし汽車がきて、窓から長い棒などが出てゐたら、一ぺんになぐり殺されてしまつたでせう。
 ところがその晩は、線路見まはりの工夫もこず、窓から棒の出た汽車にもあひませんでした。そのかはり、どうもじつに変てこなものを見たのです。
 九日の月がそらにかゝつてゐました。そしてうろこ雲が空いつぱいでした。うろこぐもはみんな、もう月のひかりがはらわたの底までもしみとほつてよろよろするといふふうでした。その雲のすきまからときどき冷たい星がぴつかりぴつかり顔をだしました。
 恭一はすたすたあるいて、もう向ふに停車場のあかりがきれいに見えるとこまできました。ぽつんとしたまつ赤なあかりや、硫黄のほのほのやうにぼうとした紫いろのあかりやらで、眼をほそくしてみると、まるで大きなお城があるやうにおもはれるのでした。
 とつぜん、右手のシグナルばしらが、がたんとからだをゆすぶつて、上の白い横木を斜めに下の方へぶらさげました。これはべつだん不思議でもなんでもありません。
 つまりシグナルがさがつたといふだけのことです。一晩に十四回もあることなのです。
 ところがそのつぎが大へんです。
 さつきから線路の左がはで、ぐわあん、ぐわあんとうなつてゐたでんしんばしらの列が大威張りで一ぺんに北のはうへ歩きだしました。みんな六つの瀬戸もののエボレツトを飾り、てつぺんにはりがねの槍をつけた亜鉛のしやつぽをかぶつて、片脚でひよいひよいやつて行くのです。そしていかにも恭一をばかにしたやうに、じろじろ横めでみて通りすぎます。
 うなりもだんだん高くなつて、いまはいかにも昔ふうの立派な軍歌に変つてしまひました。
「ドツテテドツテテ、ドツテテド、
 でんしんばしらのぐんたいは
 はやさせかいにたぐひなし
 ドツテテドツテテ、ドツテテド
 でんしんばしらのぐんたいは
 きりつせかいにならびなし。」
 一本のでんしんばしらが、ことに肩をそびやかして、まるでうで木もがりがり鳴るくらゐにして通りました。
 みると向ふの方を、六本うで木の二十二の瀬戸もののエボレツトをつけたでんしんばしらの列が、やはりいつしよに軍歌をうたつて進んで行きます。
「ドツテテドツテテ、ドツテテド
 二本うで木の工兵隊
 六本うで木の竜騎兵
 ドツテテドツテテ、ドツテテド
 いちれつ一万五千人
 はりがねかたくむすびたり」
 どういふわけか、二本のはしらがうで木を組んで、びつこを引いていつしよにやつてきました。そしていかにもつかれたやうにふらふら頭をふつて、それから口をまげてふうと息を吐き、よろよろ倒れさうになりました。
 するとすぐうしろから来た元気のいゝはしらがどなりました。
「おい、はやくあるけ。はりがねがたるむぢやない…

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