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書けない探偵小説
かけないたんていしょうせつ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集11」 ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年12月3日
入力者柴田卓治
校正者渥美浩子
公開 / 更新2001-06-06 / 2014-09-17
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 素晴らしい探偵小説が書きたい。
 ピカピカ光る太陽の下を傲華な流線スターがスウーと横切る。その中に色眼鏡をかけて済まし返っているスゴイような丸髷美人の横顔が、ハッキリと網膜に焼付いたまま遠ざかる。アトからガソリンの臭いと、たまらない屍臭とがゴッチャになってムウとするほど鼻を撲つ。
 ……ハテナ……今のは、お化粧をした死骸じゃなかったか知らん……。
 と思うトタンに胸がドキンドキンとする。背中一面にゾーッと冷たくなる。ソンナ探偵小説が書きたい。

 美人を絞殺して空屋の天井に吊しておく。
 その空屋の借手がないために、屍体がいつまでもいつまでも発見されないでいる。
 タマラなくなった犯人が、素人探偵を装って屍体を発見する。警察に報告して、驚くべき明察を以て自分の犯行の経路を発く。結局、何月何日の何時何分頃、何ホテルの第何号室に投宿する何某という男が真犯人だと警官に予告し、自分自身がその名前で、その時刻に、その室に泊る。その一室で警官に猛烈な抵抗を試みた揚句、致命傷を受けて倒れる。万歳を三唱して死ぬ。ソンナ探偵小説が書きたい。

 或る殺人狂の極悪犯人が、或る名探偵の存在を恐れて是非とも殺して終おうとする。
 そうすると不思議にも、今まで恐怖という事を知らなかった名探偵が、極度にその極悪犯人を恐れるらしく、秘術を尽して逃げ惑うのを、犯人が又、それ以上の秘術を尽して逐いまわる。とうとう大きな客船の上で、犯人が探偵を押え付けて、相抱いて海に投ずる。
 二人の屍体を引上げて、色々と調べてみると、犯人は探偵の昔の恋人であった美人が、変装したものであった。……といったような筋はどうであろうか。

 トロツキーが巴里郊外の或る小さな池の縁で釣糸を垂れていた。嘗て親友のレニンが、その池に投込んだというロマノフ家の王冠を探るためであった。
 トロツキーは成功した。やがて池の底から金玉燦然たる王冠を釣上げてニコニコしていると、その背後の夕暗にノッソリと立寄った者が在る。
「どうだい。釣れたかね」
 トロツキーがビックリして振返ってみると、それはレニンであった。莫斯科の十字路で硝子箱入の屍蝋と化している筈の親友であった。
 トロツキーは今些しで気絶するところであった。王冠と、釣竿と、帽子と、木靴を残して一目散に逃失せてしまった。
「ウワア――ッ。幽霊だア――ッ」
 レニンはニヤリと笑ってアトを見送った。草の中から王冠を拾い上げて撫でまわした。
「アハハハハハ俺が死んだ事を世界中に確認させるトリックには随分苦心したものだ。しかしあのトロツキーまでが俺の死を信じていようとは思わなかった。
 トロツキーは俺の筋書通りに動いてくれた。彼奴にだけこの王冠の事を話しておいたのだからな。……俺がアレだけの大革命を企てたのも、結局、この王冠一つが慾しかったからだとは誰も知るまい。況んや俺が革命前…

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