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樹木とその葉
じゅもくとそのは
作品ID2216
副題23 梅の花桜の花
23 うめのはなさくらのはな
著者若山 牧水
文字遣い旧字旧仮名
底本 「若山牧水全集 第七卷」 雄鷄社
1958(昭和33)年11月30日
入力者柴武志
校正者林幸雄
公開 / 更新2001-06-13 / 2014-09-17
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




きさらぎは梅咲くころは年ごとにわれのこころのさびしかる月
 梅の花が白くつめたく一輪二輪と枯れた樣な枝のさきに見えそむる。吹きこめた北の風西の風がかすかな東風にかはらうとする。その頃になるときまつて私は故のない憂欝に心を浸されてしまふ。
 眼をあけてゐるのもいやだが、而かも心の底は明るく冷やけく澄んで居る。爲事のいやになるのもこの頃である。煙草のいゝのを喫ひたくなるのもこの頃である。
 あたりの木々も、常磐樹ならば金屬の樣に黒く輝き、落葉樹ならばたゞ明るく靜けく枯れた樣に立つてゐる。根がたの草はみなひとしく枯れ伏してうすら甘いその頃の日ざしを含んでゐる。さうしたなかに一りん二りんと咲き出づる梅の初花を私は愛する。
年ごとにする驚きよさびしさよ梅の初花を今日見出でたり
梅咲けばわがきその日もけふの日もなべてさびしく見えわたるかな
梅の花はつはつ咲けるきさらぎはものぞおちゐぬわれのこころに

 然し何と云つても春は櫻である。それもお花見場所の埃つぽいのは花のおもひがせぬ。靜かな庭に咲き出でた一本二本、雨の後などとりわけて鮮けく、照り澄んだ日ざしのなかにほくらほくらと散り澄んで輝いてゐるのもいゝ。
夕霽暮れおそきけふの春の日の空のしめりに櫻咲きたり
雨過ぎししめりのなかにわが庭の櫻しばらく散らであるかな
ひややけき風をよろしみ窓あけて見てをれば櫻しじに散りまふ
春の日のひかりのなかにつぎつぎに散りまふ櫻かがやけるかな

 さういふうちにも私はほんたうの山櫻、單瓣の、雪の樣に白くも見え、なかにかすかな紅ゐを含んだとも見ゆる、葉は花よりも先に萌え出でて單紅色の滴るごとくに輝いてゐる、あの山櫻である。これは都會や庭園などには見かけない、どうしても山深くわけ入らねばならぬ。
うす紅に葉はいちはやく萌え出でて咲かむとすなり山ざくら花
花も葉も光りしめらひわれのうへに笑み傾ける山ざくら花
かき坐る道ばたの芝は枯れたれやすわりてあふぐ山ざくら花
うらうらと照れるひかりにけぶりあひて咲きしづもれる山ざくら花
刈りならす枯萱山の山はらに咲きかがよへる山ざくら花



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