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ソヴェト労働者の夏休み
ソヴェトろうどうしゃのなつやすみ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第九巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年9月20日
初出「戦旗」1931(昭和6)年9月号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2002-11-22 / 2014-09-17
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 さて、いよいよモスクワも本物にあつくなって来た。
 あっちは、日本みたいに梅雨はないが、冬がひどく長い。四月頃やっと雪がとけて、メーデーには、小雨でも降ると、まだどうしてなかなか冷えるという時候だ。
 それが五月二十日すぎるとカーッと一時に夏になるんだ。
 こないだまでその上でみんながスケートをやってたと思うモスクワ河には河童どもがいっぱいだ。
 夕方、仕事から引きあげて来ると、もう早い連中が、河の堤の青い草の上へ服をぬぎすてて、バシャバシャやってる。裸身の親父がまだボシャボシャすることも知らない小さい息子を抱いて、体を洗ってやってると、妻君が嬉しそうにしゃがんで眺めているのなどもよく見かける。
 一寸電車にのって行くと、やっぱりモスクワ河に沿って、「文化と休みの公園」という数万坪の大公園がある。
 河には職業組合の貸ボートがある。
 公園の茂った樹の間には、図書館、芝居、音楽、活動写真館、その他、ラジオだの発明相談所だのがウンとある。素敵な水浴場もある。一晩ゆっくり楽しんだって、隅から隅までは見きれるものじゃない。
 白い木綿や麻のルバシカ(シャツの一種)を着たソヴェトのプロレタリアートに支那人もコーカサス人もグルジヤ人も(スターリンが生れたところの人たちだ)混って、愉快に大衆遊戯などやってる光景は、実に世界に二つとない見ものだ。
 昔から、劇場は夏になると閉められ、軽い芝居を公園の中の夏舞台でやる習慣だが、今年の夏は、夏もぶっ通して芝居をやるらしい。それは何故かというと、御承知のソヴェトの社会主義建設五ヵ年計画の今年は三年目だ。極く大切な年だ。
 これまでだって、ソヴェトのプロレタリアートは力を合わせ、この大仕事の完成に努力して来たが、今年の力瘤の入れようはまた別だ。
 働くのに五日週間制で、順ぐり「間断なき週間」でやるのに、休みのときの楽しみを与えてくれる文化活動だけが夏休みしちまうのは変だ。芝居も、役者は順ぐり休むがいいが、小屋はズッと開けろという意見が出ているわけだ。
 アーク燈に美しく照らされたモスクワ市中の並木道は、日に二時間ぐらいずつ自由時間のある赤衛兵、ピオニェール、その他大衆の散歩で賑やかだ。並木道にも音楽堂があって、労働者音楽団の奏する音楽が遠くまで、夜おそくまで聞える。
 ソヴェト同盟はひろい国だ。北と南との端では気候がまるきり違う。モスクワ辺は、五月下旬から九月までが夏で、あと短い雨の多い秋からすぐ半年の冬に入るから、夏の楽しみようは、想像以上なんだ。
 ところで、ソヴェトの労働者は、年一ヵ月の有給休暇を貰う。
 有名な海岸、温泉場、山の避暑地に昔ブルジョアが建てた立派な別荘、宮殿がある。それが今は勤労者のための「休みの家」になっている。結核療養所になってるところもある。
 各工場は、職業組合を通して、めいめい自分たちの「休みの家…

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