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ソヴェト「劇場労働青年」
ソヴェト「トラム」
作品ID2747
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第九巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年9月20日
初出不詳
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2002-11-29 / 2014-09-17
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 一九三〇年の初夏、レニングラードから「トラム」劇団がモスクワへ興行に来た。その「トラム」劇団と云うのは皆何年か実際職場で働いた経験のあるコムソモール達に依って組織されている劇団だ。初め各々が演劇好きで倶楽部の演劇研究部のメンバーとなり、勉強して祭の日に倶楽部の芝居へ出演したりしていた。ところが段々専門化して来て色んな工場から何人かそういう連中が集まり、コンムーナ(共産制の生活様式)で話すようになった。MOSPS(モスクワ地方職業組合ソヴェト)劇場の教育部に指導されてメキメキ発達した。レニングラード・トラムはもう劇場をもっている。モスクワの方は劇場を持っていないが郊外にあるコンムーナの家で厳格な稽古、政治的な勉強をやりながら活溌に移動演芸団として多くの倶楽部を廻って皆を喜ばしている。その時「トラム」は革命劇場でやったが偉い人気だ。吾々なんか二度も切符を買いに行ったが、売り切れでやっと三度目に這入れたという有様だ。その時の上演目録はコムソモールのコンムーナを取り扱った陽気なオペレットと五ヵ年計画に於ける農場の集団化を主題としたドラマだった。オペレットの事だから筋は割合他愛の無い物だし、歌がどっさり這入り陽気にやっているらしくは見えるが全体に漲るユーモアまたは恋愛的な場面の表現の仕方などには、これまでのソヴェトの劇場の何処もが把握する事が出来なかった新鮮な新ソヴェト気質が輝き渡っていた。俳優がまるで新らしい様式と生活内容で育っているから殆ど、彼等自身意識していなそうな若々しさがある。トラムのそこが値打だ。観客はそのオペレットの時なんかは実に大喜びで、幕合には革命劇場中賑かな歌の声で響き渡った。オペレットの音楽が極く大衆的な、単純で可愛いい要素で作曲されているので、若い連中は見ている間に歌を覚え、早速その合唱という訳だ。農村の集団化を扱ったドラマでは中農の息子と貧農の息子との階級的対立が、大きい社会的背景の前に非常によく写されていた。こう云う主題はこなすのが仲々難かしい。五ヵ年計画と共に幾つかその種の脚本が書かれた。例えばカターエフが「前衛」を書いて、それをワフタンゴフ劇場が上演した。だが「前衛」は階級的闘争を個人的な感情の対立をきっかけとして描写したところから、多くの欠点を持った。トラムの演じた集団化のアジプロ劇は政治的な問題を極く見易い農村の日常的事件の中に盛り込んで潤いのある情熱的な演出だった。難かしいことを云えば技術的に未だ未熟だし、田舎臭いところもありはするがトラムにはそう云う欠点を片端から克服して行くだけの唯物弁証法的な努力と正しいプロレタリア的素質がある。つまり現代の建設期のソヴェト青年男女が持っている階級的な強みが彼等の中にはっきり生きている訳だ。何と云っても今ソヴェト同盟で一番活溌に文化活動をやっているのは勤労大衆の中の若い人々、コムソモールを中…

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