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「道標」を書き終えて
「どうひょう」をかきおえて
作品ID3027
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十三巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年11月20日
初出「新日本文学」1951(昭和26)年3月号、「展望」1951(昭和26)年3月号(同時掲載)
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-05-30 / 2014-09-17
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

「道標」は、「伸子」から出発している「二つの庭」の続篇として、一九四七年の秋から『展望』誌上にかきはじめた。第一部、第二部、第三部とずっと『展望』にのせつづけて一九五〇年十月二十五日に、ひとまず三つの部分をおわった。
 一つの雑誌が、あしかけ四年かかって、ほぼ三千枚の小説を連載しきったということは、風変りな仕事であった。一部の終るごとに、わたしは弱気になって、編輯者の重荷になりはしまいかと心配したが、編輯の方では、ほかの雑誌ではしない仕事としてやっているのだからかまわないということで、とうとう第三部までのせ終った。第二部をかきはじめるころ、『新日本文学』にのせたいという話が出て、『展望』も新日本文学へならば異存をいうすじもないという考えだったし、わたしももとより異議なかった。しかし、その話は、立ち消えて、やはり同じ誌上につづけられそこで終結した。
 第一部は、健康の最もわるい時期から書きはじめた。四七年の夏八月はじめに「二つの庭」を書き終ったとき、血圧が高まり、五年前に夏巣鴨の拘置所のなかでかかった熱射病の後遺症がぶりかえしたようになった。視力が衰えて、口をききにくくなって来た。仕方がなくなって、友人の心づかいで急に千葉県の田舎へ部屋がりをした。そして、その友人に日常の細かい親切をうけながら、九月はじめから、一日に一時間ずつときめて、一枚一枚半という風に「道標」第一部に着手した。五〇年の十月末に第三部を書きあげるまで、わたしの生活では治療と執筆とが併行した。

「道標」は、第一部第二部と、第三部との間にある特殊な変化がある。第一部第二部をとおして、女主人公は、ソヴェト同盟の日常生活というも{以下欠}

 こうして書きはじめてみると、わたしにとって「道標」三部をかき終ったところで、この長篇全体をとおして何を試みようとしているかというようなことを語るのは、まだ困難だということがわかった。第一、長篇として「道標」三部は終ったけれども、まださきに凡そ三巻ばかりのこっている。第二に、形の上で、「道標」は中途の一節であるばかりでなく、わたしとして創作方法の発展の道ゆきからも、まだ中途であり、作者としてやっと一つの摸索の過程を通過したばかりである。このことは「二つの庭」「道標」第一部第二部、そして第三部と、それぞれの間に見られるむら――変化が率直に物語っていると思う。わたしは、別のところでも語ったように、この長篇は、自分の実力のあるがままのところから、はためには自然発生的な方法でとりかかった。しかし、その自然発生風な書きはじ{め}かたについて、作者として無意識なのではなかった。とにかく、日本の現代文学の実作の経験のうちには、まだ社会主義リアリズムの方法が、はっきりそれとして試みられたことがない。その上、わたし自身としても、日本に社会主義リアリズムの紹介された一九三三年以後…

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