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「市の無料産院」と「身の上相談」
「しのむりょうさんいん」と「みのうえそうだん」
作品ID3076
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十四巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日
初出「婦人戦旗」1931(昭和6)年8月号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-07-03 / 2014-09-17
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 今日、東京朝日新聞を見たら、フトこういう記事に目がとまりました。
近く市が建設する理想的な無料産院
 貧しい人々の間に差しのべる温かい救いの施設
 これは耳よりな話だ。そう思って読んで見ると、その無料産院というのは、予算十二万円。建物二百坪。コンクリートの二階建て、産院は細民カードに登録された家庭の婦人をお産の前後二週間四十人収容できるものなのだそうだ。
 そして、一緒に建つ姙婦健康相談所で、プロレタリア婦人の避姙の相談にものり、産院で子を生ませてもらっても、とうてい育てられないほど困った時には、附属の乳児院の方で六ヵ月乃至一年間預り、または院外保育児として、里子に出し、その費用も同院でフタンする。
 この産院は、これまでにある市内の児童相談所のうち五ヵ所に属している牛乳無料配給所とも共同して働く。
 こんな完備した設備の産院は日本ではじめてばかりではない。東洋一だ。「失業と多産のためにほとんど飢餓にひんしているこの階級の親たちにとっては全く天来の福音である」と新聞の記事はかきたてている。
 プロレタリアートの姉妹たち!
 われわれはこの記事から、プロレタリアの女として、どんな「天来の福音」を感じることができるか。
 資本家の政府は、こわくなって来たんだ。資本主義経済の行きづまりで失業者をドシドシ往来にホッポリ出している。日本だけで二百五十万人の失業者とその家族とが、ほんとに飢餓に瀕して死を目の前に見ている。
 万年失業におとされたプロレタリアの妻、母ほど、切ないものはない。何としたって、資本主義の世の中がかわらない限り、この地獄はつづくことを、プロレタリアの婦人はハッキリ見るようになって来た。
 そこで何か目先のゴマ化しで、プロレタリア婦人の根づよい怒りをはぐらかそうとしてこういう産院建立も考え出されたわけなのです。
 われわれはこういう記事をよむと、一層の階級的憤怒を感じる。だってそうではないか、姉妹!
 市の細民カードとはどんなものか? 政府の失業登録と同じに、できるかぎり標準をひくめ、数をへらそうとして仕くまれているものだ。しかも、その細民カードの中から、タッタ四十人その産院へ入れるとして、それが広汎なプロレタリアート婦人の一人一人に、どんな現実の助けとなるか。
 失業したプロレタリアートの妻はもちろんです。失業しないまでも賃銀半額に引下げられた労働者の暮しはどんなものか。その中で赤坊は産めないからというので、姙婦相談所へ出かけ、避姙を教わったり、人工早産して貰ったりする。
 だが姉妹。目先の便利でゴマ化されるのはやめよう。プロレタリアート婦人の胸には消えない恨みがのこされる。資本主義の社会はプロレタリアの婦人からよろこび勇んで母親になる、それこそ天来の権利を奪って、代りに人工早産をあてがっているのだ。
 日本全国のプロレタリアートの半数を占める婦…

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