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未開の花
みかいのはな
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十四巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日
初出「婦人公論」1937(昭和12)年1月号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-07-30 / 2014-09-17
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 家中寝鎮まったものと思って足音を忍ばせ、そーッと階下へおりて行ったら、茶の間に灯がついていて、そこに従弟が一人中腰で茶を飲んでいた。どうしたの今時分まで、というと、鼠退治さ。栗のいがってどこにあるんだい。さア、私も知らないけど。そう答える私は元禄袖のどてら姿、従弟はその辺にあった膝掛けを洋服の上から羽織った恰好で、お茶を注ぎ、寝ようよ寝ようよと云いながらつい話が弾んで明方近くになってしまった。
 若いサラリーマンである従弟の話の中に、この頃の若い女のひとで結婚はしたくないが子供だけは欲しいって云うのが随分あるねということがあった。或る気質の女のひとが男などと話しているときの一つの姿態としてそういう表現でものを云うようなことも少なくはないであろう。女のそういう時の本当の心持、うその心持の綯い交る状態を寧ろ面白く思ってきいたのであった。
 そのことはそれきり忘れていて、先晩、ある会で婦人の評論家にあった。中心の話題は文学のことであったが、偶然向い合わせに坐ったそのひとは、ねえ、あなたはどう思いますと、若い女のひとの中に結婚はいやだが子供は欲しいと云う人があることについて話すのであった。その席では、まわりとの関係でそのまま発展されずに終ったが、私の心の中に言葉は活々とのこされた。何故なら、私は前にも自分が同じことを従弟からきいたことを鮮明に思い出したから、そして、探究心を刺戟されることを感じた。
 日本の若い女のひとの間にあるその心持というのは、本気かしら。本気ならば、何故彼女たちの感情はそういう形をもって女の新しい生活への要求を表現するのであろうか。そこには様々のものが錯綜している、そう感じられるのであった。
 ロマン・ローランは有名な「ジャン・クリストフ」の中で実によく女の多様なタイプを描いている。それぞれに異った性格、生きかたをするそれぞれの女が驚くばかりの瑞々しさで極めて感覚的に、肉体と精神とで活かされている。「魅せられた魂」という長篇を、同じこの作家が書いた。アンネットという教養のある、深い心持をもった若い女が中心の人物となって、展開するのであるが、アンネットが自分の女性完成のために選んだ路は独特なものであった。アンネットは婚約の青年をもっていたのであるが、彼女は従来の仕来りどおりの結婚生活の中で二つの人間的な要素、個性的な特色が互に減殺しあうこと、愛情が見せかけの仕草や慣習の一つに堕すことなどを嫌って、通常の結婚生活に入ることを拒む。けれども、アンネットは女性としての完成、そのたっぷりした成熟をねがう心は切である。謂わばそのために却って昔からの偽善的な夫婦生活の惰力を厭っているのである。アンネットは決心をして、婚約の青年と或る期間生活を共にした。母になる可能性を信じるようになって、その青年とは訣れてしまった。
 これは作品の第一巻の部分をなしている。…

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