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離婚について
りこんについて
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「与謝野晶子評論集」 岩波書店 岩波文庫
1985(昭和60)年8月16日
初出「東京二六新聞」1909(明治42)年4月8日
入力者Nana ohbe
校正者門田裕志
公開 / 更新2002-01-10 / 2014-09-17
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 陸軍軍医正の藤井氏と東京音楽学校助教授の環女史との離婚が、新聞紙の上で趣味の相違から生じた離婚だとか、陸軍と芸術との衝突だとか大袈裟に報道せられ、これについて諸先生方の御批評なども見えております。陸軍と芸術とがもし衝突致すものなら、只今の我国の有様ではとても筆や楽器は鉄砲に叶いませんから、素直に鉄砲に屈従して離婚沙汰などには立至らずに納まりそうなものでしたが、どういうものでしょうか。

 また趣味の相違が原因だと決る前に、その趣味とはどんなものか、それを質す必要があるかと存じます。湯屋の三助や床屋の小僧でも今日盛んに使う「趣味」という語と同じ意味の趣味ならば余りありがたくもないものであるし、音楽学校の先生であるからと申して一概に芸術の真の趣味が解っていると断じかねる場合もありましょう。新聞記者の目には水死の女が必ず皆美人に見えるという得な事もあるのですから、音楽学校の先生といえば皆芸術の趣味を理解せられたいわゆる「芸術家」と見えぬとも限りません。

 また趣味の相違というと、双方に何らかの趣味があってそれが衝突したようにも聞えますが、今の陸軍の高い位地にいられる多数の方方に果して趣味――円満な教育を受けた文明人の理解する趣味と申すようなものがありましょうか。私は先ずそれを観察の鋭敏な新聞記者の皆様から承わりたいと存じます。藤井氏は陸軍軍医正、環女史は音楽学校助教授、二氏の職業はかように明白ですが、二氏が趣味の人であるかどうかと申す事が明白でない以上、この離婚が趣味の衝突に起因したとは肯れません。

 私は陸軍と衝突するほどに我国の芸術が強い力を出すようになるならば面白かろうと存じて、そういう盛な時節の到来せん事を祈っております。また社会に地位ある男女が趣味の相違から離婚するというような事が起るならば、それも文明国にして初めて見られる事柄であって、むしろ日本の家庭の進歩したために生ずる行き違いであると考えたいので御座います。しかし我国の今日の有様ではまだ容易に陸軍軍医正たる藤井氏の趣味が其処まで進んでいるとは想像致しかねます。これは新聞記者たる方方のもっと深い観察を煩さねばなりません。

 離婚という事を一概に罪悪のように考える人のあるのはどうでしょうか。離婚をして双方幸福の生涯に入った人も少くないと存じます。そういう場合には社会はその人たちの離婚を賀しても宜しいでしょう。また夫婦という者はあながち幸福ばかりを打算して一緒になっておられるものでなく、そういう打算や道徳や義理や、聖人の教や、乃至神様の語などを十分知り抜いてしかもそれを超越した処に、どうしても双方の気分が喰違って面白くないという場合もあるのですから、其処に至っては合議の上で離婚するのが正当の処置であろうと存じます。

 私は気の毒に感じます事は、教育界の諸先生がこういう事件に出会れる度に、心にも…

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