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小説に用ふる天然
しょうせつにもちうるてんねん
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「鏡花全集 第二十八巻」 岩波書店
1942(昭和17)年11月30日
入力者高柳典子
校正者門田裕志
公開 / 更新2003-09-12 / 2014-09-18
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




 小説を作る上では――如何しても天然を用ゐぬ譯には行かないやうですね。譬へば惚れ合つた男女二人が話をしながら横町を通る時でも、晴天の時と、雨天の時とは、話の調子が餘程違ひますからね。天然と言つても、海とか、山とかに限つたことはありません。室内でも、障子とか、襖とか、言ふものは、天然の部に這入つてもよからうと思ひます。だから其の室内の事を書く時でも、天然を見逃がす事は出來ません。また夜更けに話すのと、白晝に話すのとは、自から人の氣分も違ふ譯ですから、勢ひ周圍にある天然を外にする譯に行かないでせう。假に場所を東京市内に選んで、神田とすれば、又其處に特有の天然があります。何方かと言へば、私の作などの中には、景色を見てから、人物を考へ出した場合が多い。『三尺角』や、『葛飾砂子』などは深川の景色を見て、自然に人物を思ひ浮べたのです。然し天然を主にして、作意を害するやうな事は面白くありません。程よく用ゐたいものです。
明治四十二年一月



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