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大菩薩峠
だいぼさつとうげ
副題05 龍神の巻
05 りゅうじんのまき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「大菩薩峠2」 ちくま文庫、筑摩書房
1995(平成7)年12月4日
初出第五巻「竜神の巻」「都新聞」1915(大正4)年 6月12日~7月23日
入力者(株)モモ
校正者原田頌子
公開 / 更新2001-05-30 / 2014-09-17
長さの目安約 77 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

         一

 天誅組がいよいよ勃発したのは、その年の八月のことでありました。十七日には大和五条の代官鈴木源内を斬って血祭りにし、その二十八日は、いよいよ総勢五百余人で同国高取の城を攻めた日。その翌日、十津川へ退いて、都合二千余人で立籠った時の勢いは大いに振ったもので、この分ならば都へ攻め上り、君を助けて幕府を倒すこと近きにありと勇み立ち、よく戦いもしたけれど、紀州、藤堂、彦根、郡山、四藩の大兵を引受けてみて、力が足りないのは是非もないことでした。
 侍従中山忠光は浪花へ落ち、松本奎堂、藤本鉄石、吉村寅太郎らの勇士は、或いは戦死し、或いは自殺して、義烈の名をのみ留めた――十津川の乱の一挙は近世勤王史の花というべく、詳しく書けば、ここにまた一つの物語を見出されようけれども、それはここに必要を認めず。いよいよ、これらの一味の者が散々になって、或る者は伊勢路へ、或る者は紀州領へ、或る者は大阪方面を指して、さまざまに姿を変えて落ちた後のことであります。
 鷲家口の戦いから落ち延びた十一人の浪士が、木にも草にも心を置いて風屋村というところへさしかかって、
「ああ、水が飲みたい」
「水が欲しい」
 村とはいうものの、ここは十津川郷の真中で名にし負う山また山の間です。十津川の沿岸を伝うて行けばなんのことはないのですけれども、四藩の討手が、残党一人も洩らすまじと、夜となく日となく草の根を分けている際ですから、それはできませんでした。
 大日ヶ岳へ連なる山々を踏みわけて、木の繁みを潜り潜り歩いて行くのだから、水にも遠くなる。水、水というけれども、木莓一株を見つけ出してさえ、十一人の眼の色が変るくらいですから、その腹の応えは思いやらるるのです。
「川岸まで戻ってみようか」
 眼を見合せて惨澹たる面の色。
「それはよせ、さいぜん鉄砲の音が聞えた。拙者の考えでは、これをずっと向うへ横に切って、紀州の日高郡をめざすが無事だと思う」
「道程は……」
「風屋――小森――平松――三本磯と行って、紀州日高郡の竜神へ凡そ十三里」
「その間の兵粮は……」
「さあ、それが……」
 一同は口を噤んで足が動かない。
「おのおの方、あれを見られよ、煙が棚引いている」
 沈んだ声で後ろから言い出したのは、あの時以来、何をしていたか、ともかくここまで傷一つ受けずに来た机竜之助でした。
 翠微の間に一抹の煙がある――煙の下にはきっと火がある、火の近いところには人があるべきものにきまっています。
「なるほど、煙が立つ、拙者が様子を見て来よう」
 村本伊兵衛というのが出かける。
「よし、我輩も行こう」
 荷田重吉がいう。村本と荷田は連れ立って、その煙の方へ行ってみます。あとの九人は、木の根と岩角とに腰をかけて、その斥候を待っています。
「諸君、仕合せよし」
 村本と荷田は欣々として帰って来て、
「山小屋…

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