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みごとな女
みごとなおんな
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「現代日本文學大系 83 森本薫・木下順二・田中千禾夫・飯沢匡集」 筑摩書房
1970(昭和45)年4月5日
初出「劇作」1934(昭和9)年11月
入力者伊藤時也
校正者松永正敏
公開 / 更新2002-03-11 / 2014-09-17
長さの目安約 35 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

  人
あさ子
真紀



豪奢と言うのではない、足りととのった家庭。人形をかざったピアノが一つ、坐り机が一つ、縁先に籐椅子が二つ、卓。みるところ若い女の部屋らしい。
六月。
誰もいない。

あさ子。二十四。和服。身体つきは大柄で少し肥っているが美しい。時々片手を上げて指先で両の眉を内から外へ撫でつける癖がある。話をさせても他人の調子には頓着なく、緩り句切って云うようなところがある。外出から帰ったところ。すこしの間部屋の真中に立って周囲を見まわし、思い出したようにピアノの前にいく。
ちょっとためらった後、ショパンの作品九番の第二の夜曲をさぐりさぐり弾き出す。甚だしく拙い。少し弾いて直ぐ行詰まって了う。立ち上って、楽譜をさがす。
あさ子 (さがすものが見つからないらしく)どうしたのかしら……。(もう一度、そんなに多くもない楽譜をパラパラ繰る)あ、そうか……(楽譜を放り出してピアノを離れ、ゆっくり縁側へ出て、又入って来る。机の横に置いた小物入れから作りかけにした衣装人形を取り出し、縁側に行って椅子にかける)
真紀。四十七。ずっと若くみえる。
真紀 (縁づたいにきて通り過ぎそうになって気がつき)おや。あさ子、あなた何時帰ったの?
あさ子 たった今よ。薬局ん中でみてたんじゃないの。
真紀 いいえ、ちっとも知らなかった、母さん。
あさ子 そう。みてるんだと思ってた。御免なさいね。
真紀 それはいいけれど。また行かなかったのね。(にやりとする)
あさ子 あら母さん、行ったわよ。
真紀 お弁当を届けさせたら、おいでになりませんって、変な顔して帰ってきたよ。ほんとは何処かで遊んでたんだろう。
あさ子 ひどいわ。そうじゃないのよ。ほんとに、行ったことは行ったのよ。そしたらね、よし子さんが、帯留ね、先から言ってたでしょう、あれを買いに行くから付き合って呉れって言うの。
真紀 お裁縫は厭だし、丁度幸いと言うところね。
あさ子 でもお友達がそう言うもの仕方がないわ。おつきあいよ。
真紀 此の間お師匠さんにお目にかかったら、何て仰言ったと思う? あなた。
あさ子 なんて?
真紀 止そう。可哀そうだから。
あさ子 あらあら母さん、何んて仰言ったのよ。言いかけといて止めるの? そんなことってないわ。さあ、母さんったら。
真紀 何です? それは。あなたいくつ?
あさ子 だって。じゃ言って呉れる?
真紀 薬学校の方じゃ優等生だったそうですが、お裁縫の方じゃ劣等生です、って。卒業の見込無いそうですよ。
あさ子 まあ! 嘘でしょう。
真紀 自分で訊いてみるといい。
あさ子 あたしが訊いたら、そのとおりって仰言るにきまってるわ。
真紀 自分でわかってれば、それでいいさ。
あさ子 そうじゃないの。
真紀 あなた、自分で、いけないって言われることがわかってれば、少しは精を出すものよ。
あさ子 違う…

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