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政談月の鏡
せいだんつきのかがみ
作品ID353
著者三遊亭 円朝
文字遣い新字新仮名
底本 「定本 圓朝全集 巻の一」 近代文芸・資料複刻叢書、世界文庫
1963(昭和38)年6月10日
入力者小林繁雄
校正者かとうかおり
公開 / 更新2000-05-09 / 2016-04-21
長さの目安約 110 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 政談月の鏡と申す外題を置きまして申し上るお話は、宝暦年間の町奉行で依田豐前守様の御勤役中に長く掛りました裁判でありますが、其の頃は町人と武家と公事に成りますと町奉行は余程六ヶしい事で有りましたが、只今と違いまして旗下は八万騎、二百六十有余頭の大名が有って、往来は侍で目をつく様です。其の時の江戸の名物は、武士、鰹、大名小路、広小路、茶見世、紫、火消、錦絵と申して、今の消防方は四十八組有って、火事の時は道路が狭いから大騒ぎです、焼出されが荷を担いで逃げ様とする、向からお町奉行が出馬に成る、此方の曲角からお使番が馬で来る、彼方から弥次馬が来る、馬だらけに成りますが、只今は道路の幅が広くなりずーッと見通せますが、以前は見通しの附かんように通路が迂曲て居りましたもので、スワと云うと木戸を打ち路次を締める、少しやかましい事が有ると六ツ限で締切ります、此の木戸の脇に番太郎がございまして、町内には自身番が有り、それへ皆町内から町内の家主(差配人さん)がお勤めに成って、自身番の後の処が屹度番太郎に成って居たもので、番太郎は拍子木を打って夜廻りを致す丈の事でスワ狼藉者だと云っても間に合う事はない、慄えて逃げて仕舞い、拍子木を溝の中へ放り出して番屋へ這込むなどと云う弱い事で、冬になると焼芋や夏は心太を売りますが、其の他草履草鞋を能く売ったもので、番太郎は皆金持で、番太郎は越前から出る者が多かったようで、それに湯屋の三助は能登国から出て来ます、米搗は越後と信濃からと極って居ました、江戸ッ子の番太郎は無い中に、長谷川町の木戸の側に居た番太郎は江戸ッ子でございます、名を喜助と云って誠に酒喰いですが、妙な男で夜番をする時には堅い男だから鐘が鳴ると直に拍子木を持って出ます、向うの突当までちゃんと行って帰って来ます。大概の横着者は、チョン/\チョン/\と四つ打って町内を八分程行くと、音さえ聞えれば宜いんで帰って来ますが此の男は突当りまで見廻って来ないと気が済まないと云う堅い人で、ボンチョン番太と綽名が有る位で何う云う訳かと聞いて見ると、ボーンと云う鐘とチョンと打出す拍子木と同じだからボンチョン番太と云う、余程堅い男だが酒が嗜きで暇さえあれば酒を飲みます、女房をお梅と云って年齢は二十三で、亭主とは年齢が違って若うございますが、亭主思いで能く生酔の看護を致しますので、近所の評判にあの内儀さんは好い女だ喜助の女房には不釣合だと云われる位ですが、誠に貞節な者で一体情の深い女でございますから、本当に能く亭主の看護を致して、嗜な物を買って置き、
 梅「寒いから一杯お飲べかえ、沢山飲むといけないよ、二合にしてお置よ、三合に成ると少し舌が廻らなくなる、身体に障るだろうと思って案じられるから」
 喜「うむ寒いな、霜月に這入ってからグッと寒く成った何うしても寒くなると飲まずにゃ居られねえな」
 梅「寒い…

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