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ひらきぶみ
ひらきぶみ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「与謝野晶子評論集」 岩波文庫、岩波書店
1985(昭和60)年8月16日
初出「明星」新詩社、1904(明治37)年11月号
入力者Nana ohbe
校正者門田裕志
公開 / 更新2002-01-10 / 2014-09-17
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

みだれ髪
 君
 事なく着きし電報はすぐ打たせ候ひしかど、この文は二日おくれ候。光おばあ様を見覚えをり候はずなく、あたり皆顔知らぬ人々のみなれば、私の膝はなれず、ともすればおとうさんおとうさんと申して帰りたがりむづかり候に、わが里ながら父なくなりて弟留守にては気をおかれ、筆親み難かりしをおゆるし下されたく候。
 こちら母思ひしよりはやつれ居給はず、君がかく帰し給ひしみなさけを大喜び致し、皆の者に誇りをり候。おせいさんは少しならず思ひくづをれ候すがたしるく、わかき人をおきて出でし旅順の弟の、たび/\帰りて慰めくれと申しこし候は、母よりも第一にこの新妻の上と、私見るから涙さしぐみ候。弟、私へはあのやうにしげ/\申し参りしに、宅へはこの人へも母へも余り文おくらぬ様子に候。思へば弟の心ひとしほあはれに候て。
 おん礼を忘れ候。あの晩あの雨に品川まで送らせまつり、お帰りの時刻には吹きぶり一層加り候やうなりしに、殊にうすら寒き夜を、どうして渋谷まで着き給ひし事かと案じ/\致し候ひし。窓にお顔見せてプラツトホームに立ち居給ひし父様の俄に見えず成り給ひしに、光不安な不思議な顔して外のみ眺め、気を替へさせむと末さま/″\すかし候へど、金ととの話も水ぐるまの唱歌も耳にとめず、この小き児の胸知らぬ汽車は瞬く内に平沼へ着き候時、そこの人ごみの中にも父さま居給ふやと、ガラス戸あけよと指さしして戸に頭つけ候に、そとに立ち居し西洋婦人の若きが認めて、帽に花多き顔つと映し、物いひかけてそやし候思ひがけなさに、危く下に落つるばかりに泣きころげ来り候。その駭きに父さまの事は忘れたらしく候へば、箱根へかかり候まで泣きいぢれて、よう寐てをり候秀を起しなど致し候へば、また去年の旅のやうに虫を出だし候てはと、呑まさぬはずの私の乳啣ませ、やつとの事に寐かせ候ひしに、近江のはづれまで不覚に眠り候て、案ぜしよりは二人の児は楽に候ひしが、私は末と三人を護りて少しもまどろまれず、大阪に着きて迎への者の姿見てほつと安心致し候時、身も心も海に流れ候人のやうに疲れを一時に覚え候。
 車中にて何心なく『太陽』を読み候に、君はもう今頃御知りなされしなるべし、桂月様の御評のりをり候に驚き候。私風情のなま/\に作り候物にまでお眼お通し下され候こと、忝きよりは先づ恥しさに顔紅くなり候。勿体なきことに存じ候。さはいへ出征致し候弟、一人の弟の留守見舞に百三十里を帰りて、母なだめたし弟の嫁ちからづけたしとのみに都を離れ候身には、この御評一も二もなく服しかね候。
 私が弟への手紙のはしに書きつけやり候歌、なになれば悪ろく候にや。あれは歌に候。この国に生れ候私は、私らは、この国を愛で候こと誰にか劣り候べき。物堅き家の両親は私に何をか教へ候ひし。堺の街にて亡き父ほど天子様を思ひ、御上の御用に自分を忘れし商家のあるじはなかりしに候。弟が宅へ…

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