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日記
にっき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十七巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日
初出「文芸」1935(昭和10)年3月号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-11-30 / 2014-09-18
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

   ある夜

 細長い土間のところへ入って右手を見ると、そこがもう座敷で、うしろの壁いっぱいに箪笥がはめこんである。一風変った古風な箪笥で、よく定斎屋がカッタ・カッタ環を鳴らして町を担いで歩いた、ああいう箪笥で、田舎くさく赤っぽい電燈の光に照らされ、引手のところの大きい円い金具が目立っている。郵便局の家であった。
 目立つ箪笥を背にして、ずらりと数人の男が並んで坐っている。きちんと膝をそろえて坐っている一人一人の男の前に黒塗の足高膳が出ている。誰も喋っていず、食べてもいない。ただそうやって顔をこちらに向け並んでいる。知った顔は一つもない。
 私は黙って土間から上った。並んでいる男の人達とは鍵のてになった四角い座敷の方に宮本がいる。わたしはそちらへ行った。こちらには膳が出ていない。新聞のようなものが畳の上に無雑作に出しぱなしになっていて、其処にいるだけの人々は一つの安心した気分で結ばれている。その気配が私にも感じられて、ゆとりのあるいい心持がした。
 髪の毛や肩の上へ、箪笥を照していると同じ赤っぽい電燈の光を受けながら、和服で胡坐をかいた宮本が、そこにあった紙型をとりあげて私にその拵えかたを説明した。紙がしめっているうちに細かくたたいて字を出すんだと云うようなことを話し、話しながら自分も表をかえし、裏を返し、紙型を眺めている。その様子を私がある感情をもって眺めている。
 やがて宮本が楽しそうに体を伸してそこへ横になった。一寸経って私もそのそばへ横になった。膳を控えて並んでいる男の人達はやはりそこに膝を並べていて、今は顔を動かし何か話している。言葉はききとれないが、その話は何かそっちだけの話だということが分り、こちらはこちらで横になり、全くこだわりなく、自然である。独特にゆったりとして息つくのにらくな雰囲気を深く感じながら私は目をつぶっていたようだ。

 夢がさめると一緒に私は眼をあけて、びっくりしたように自分のまわりを見まわした。今に起きて仕事をしようと思って点けっぱなしにして置いたスタンドの緑色が動かず静かに枕元に灯っている。
 夢の中で或る間隔を置いて並んで横になっていた私に感じられていた宮本の体の量感が、さめてのちもはっきりと私の横に残っている。深夜の天井を大きく見ひらいた目で眺めながら、私はその感じに沈んで寝ているのであったが、次第に強く感情を動かして来るものを心の中に感じ、私は大きく寝がえりをうち、暫くして起き出した。
 面会に行ったとき、面会所の窓の切り穴から看守につきそわれ編笠を足もとにおいてあらわれる宮本の現実の姿は、頭をクルクル刈りにして着ぶくれ、背が低くなったように見えるのである。

   鶯

 一月末のある夜明けがた起きて仕事をしているうちに、いつか外は朝になった。
 前の井戸ばたでポンプの音がきこえ、子供の声が微かにした。雨戸をしめ…

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