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つね子さんと兎
つねこさんとうさぎ
作品ID4082
著者野口 雨情
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 野口雨情 第六巻」 未來社
1986(昭和61)年9月25日
初出「小学女生」1921(大正10)年9月号
入力者林幸雄
校正者今井忠夫
公開 / 更新2003-12-11 / 2016-02-07
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




ある日、つね子さんが、いつものやうにお庭へ出て、

兎来い 兎来い
赤い草履買つてやろ

兎来い 兎来い
赤い簪買つてやろ

兎来い 兎来い
ぴよんこぴよんこはねて来い

と、『兎来いの唄』をうたつて遊んでをりますと、
『今日は、今日は』と云つて一疋の子兎が来ました。
『まア お前は子兎ね』とつね子さんが云ひますと、
『さうです。わたしは子兎ですよ。あなたのお唄が聞えたので参りました』
と子兎はなつかしさうに云ひました。
『あら、わたしの唄が聞えたの。お前のお家は何処なの』と訊きますと、
『わたしのお家ですか。ほら、お月さまの中にお餅を搗いてゐるでせう。あれはわたしの伯父さんなんですよ。わたしのお家も矢つぱりお月さまの中なんですが、『兎来いの唄』が聞えたので、どうかしてゆきたいと、やつとのことで此処まで参りました。』
『お月さまの中まで唄が聞えたの。』
『そりやアもう、手にとるやうによく聞えますよ。わたしのお友達は皆な真似てうたつてをりますもの。』
『さうなの』と、つね子さんは大へん感心をしまして、赤い鼻緒の草履と赤い花簪とを買つてやりました。子兎は赤い鼻緒の草履をはいて、赤い花簪をさして嬉しさうに、

生れて 初めて
赤い草履はいた

生れて 初めて
赤い簪さした

お月さんの国へ もう帰らずに
ここのお庭の兎にならう。

と、うたひました。つね子さんも、

お月さんの国へ もう帰らずに
ここのお庭の兎におなり

草履切れたら
また買つてあげよう

赤い簪
また買つてあげよう

と、お庭中うたつて歩きました。子兎もつね子さんの後について、お庭中うたつて歩きました。
 そのうちに、日が暮れて、夕のお月さまが東の空からあがつて来ました。
『わたしのお友達が此方を見ながら大きな声でうたつてゐるから御覧なさい』と、子兎がつね子さんに云ひました。つね子さんが耳をすまして聞きますと、

つね子さん ありがたう
赤い草履 ありがたう

つね子さん ありがたう
赤い簪 ありがたう

お月さんの国へ
遊びにおいで

と、お月さまの中で大勢の子兎がうたつてゐる唄が、ほんたうに微に聞えました。



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