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のら犬
のらいぬ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「新美南吉童話全集 第一巻 ごんぎつね」 大日本図書
1960(昭和35)年6月20日
初出「赤い鳥」1932(昭和7)年5月号
入力者鈴木厚司
校正者佳代子
公開 / 更新2004-03-01 / 2014-09-18
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

       一

 常念御坊は、碁がなによりもすきでした。きょうも、となり村の檀家へ法事でよばれてきて、お昼すぎから碁をうちつづけ、日がかげってきたので、びっくりしてこしをあげました。
「まあ、いいじゃありませんか。これからでは、とちゅうで夜になってしまいます。今夜は、とまっていらっしゃいましよ。」
と、ひきとめられました。
「でも、小僧がひとりで、さびしがりますから。さいわいに風もございませんので。」
と、おまんじゅうのつつみをもらって、かえっていきました。
 常念御坊は歩きながらも、碁のことばかり、考えつづけていました。さっきのいちばんしまいの、あすこのあの手はまずかった。むこうがああきた、そこであすこをパチンとおさえた、それからこうきたから、こうにげたが、あれはやっぱり、こっちのところへ、こうわたるべきだったなどと、むちゅうになって、歩いてきました。そのうちに、その村のはずれに近い、烏帽子をつくる家の前まできますと、もう冬の日も、とっぷりくれかけてきました。
 しばらくしてなんの気もなく、ふと、うしろをふりかえってみますと、じきうしろに、犬が一ぴきついてきています。きつね色の毛をした、耳のぴんとつったった、あばらの間のやせくぼんだ、ぶきみな、よろよろ犬です。どこかここいらの、かい犬だろうと思いながら、また碁のことを考えながらいきました。
 一、二丁いって、またふりむいてみますと、さっきのやせ犬が、まだとぼとぼあとを追ってきています。うす暗いおうらいのまん中で、二、三人の子どもが、こまをまわしています。
「おい、坊。この犬はどこの犬だい。」
 子どもたちは、こまを足でとめて、御坊の顔と犬とを見くらべながら、
「おらァ、知らねえ。」
「おいらも、知らねえ。」
といいました。
 常念御坊は、村を出はずれました。左右は麦畑のひくい岡で、人っ子ひとりおりません。うしろを見ると、犬がまだついてきています。
「しっ」といって、にらみつけましたが、にげようともしません。足をあげて追うと、二、三尺ひきさがって、じっと顔を見ています。
「ちょっ、きみのわるいやつだな。」
 常念御坊は、舌うちをして、歩きだしました。あたりはだんだんに、暗くなってきました。うしろには犬が、のそのそついてきているのが、見なくもわかっています。
 すっかり夜になってから、峠の下の茶店のところまできました。まっ暗い峠を、足さぐりでこすのはあぶないので、茶店のばあさんに、ちょうちんをかりていこうと思いました。
 おばあさんは、ふろをたいていました。ちょうちんだけかりるのも、へんなので、常念坊は、
「おい、おばあさん。だんごは、もうないかな。」
とききました。
「たった五くしのこっていますが。」
「それでいい。つつんでおくれ。」
「はいはい。」
と、おばあさんは、だんごを竹の皮につつみます。
「すま…

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