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貞操は道徳以上に尊貴である
ていそうはどうとくいじょうにそんきである
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「定本 與謝野晶子全集 第十五卷 評論感想集二」 講談社
1980(昭和55)年5月10日
初出「太陽」1915(大正4)年
入力者Nana ohbe
校正者Juki
公開 / 更新2004-03-16 / 2014-09-18
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 私は貞操を最も尊重し、貞操を最も確實堅固な基礎の上に据ゑたいために此一文を書きます。
 今年は貞操と云ふことが問題になつて、女子の貞操ばかりでなく、男子の貞操と云ふやうなことまでが論ぜられるやうになりました。識者階級が斯う云ふ問題に眞面目な反省を取るに到つたことは勿論喜ばねばなりませんが、貞操を單に道徳として維持して行かうとすることの可否は容易に決定し難い宿題です。まだまだ之から討議を重ねて愼重に決定すべき事柄です。然るに何の新しい解釋も加へないで、之を昔の儘に道徳として強要しようとする態度の議論が多いのは甚だ宜しくないと思ひます。私達は貞操道徳に對して最も眞面目に幾多の疑惑を感じて居ます。
 私達はあらゆる虚僞と、あらゆる壓制と、あらゆる不正と、あらゆる不幸とから脱れて、最も眞實な、最も自由な、最も正確な、併せて最も幸福な生活を實現したいと渇望して居ります。私達はこの實感を基礎として一切の問題を整調して行く外はありません。
 たとひ昔は人間の生活に役立つたものでも、今の私達の情意を滿足させないものは最早私達の生活の規律には適合せず、それを強ひて外から適合させようとするのは、虚僞を以て壓制するのですから、私達はさう云ふ無法な道徳を排斥して、私達自身に必要な道徳を新しく制定することに努力しようと思ひます。
 道徳は私達の生活のために制定されるので、其れが不必要になり、または私達の生活を害するに到れば漸次に改廢すべきものであらうと思ひます。若し道徳のために人間が生存して居るのであるなら、私達は永久に道徳の奴隸となつて舊い權威の下に屈從せねばなりませんけれど、さう云ふことは飽迄も自由に生きようとする私達の實感が許容しないことです。さうして私達はあらゆる壓制から脱れ、不用な舊思想や舊道徳から自己を解放して行くことが私達の生活に意義あらしめる一つの重大條件だと考へて居ます。
 私達が壓制から脱れると云ふ意味は假にも放縱無秩序の生活を送らうとするのでなく、私達の實際生活に必要である限り、聰明な批判商量を經た上で、あらゆる自制律――新道徳、新制度の類――を建設しようとするのです。私達が此に貞操道徳に對して幾多の疑義を挾み、其等の解決を明快に識者から示されるので無くては、貞操を現代の道徳として肯定することが出來ないと言ふ意味も、要するに眞實の道徳を建設して私達の道徳性を何物にも動搖されること無しに生きて行きたいと思ふからです。貞操を最も現代的に道徳として擁護したいからです。

 貞操の起原や歴史に就て私達は深く研究する必要を感じて居りません。どうでもいい事だと思つて居ます。私達の知らうとする所は貞操に對する現代人の聰明な解釋と眞率な實行とです。
 私の持つて居る疑惑の幾つかを順序無しに次に述べて見ませう。

 貞操は女のみに必要な道徳でせうか。貞操は男にも女にも必要な道徳…

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