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近藤勇と科学
こんどういさみとかがく
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「新選組興亡録」 角川文庫、角川書店
2003(平成15)年10月25日
初出「文藝春秋増刊・オール讀物号」1930(昭和5)年7月
入力者大久保ゆう
校正者noriko saito
公開 / 更新2004-09-04 / 2014-09-18
長さの目安約 28 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

   上篇ノ一

 すぐ前に居た一人が突のめされたように、たたっと、よろめいて、双手で頭を抱えると、倒れてしまった。
「伏せっ、伏せっ、伏せっ」
 土方は、つづけざまに、こう怒鳴って、大地へ伏してしまった。
「畜生、やられた」
 土方の頭の上で、人間の声というよりも、死神の叫びのような絶叫をしたので、振向くと、口から血の泡を流しながら渋沢が、槍を捨てて、鎧の紐を引きちぎろうとしていた。
「何うした?」
 渋沢は、眼球を剥出して、顔中を痙攣させながら、膝を突いて、土方へ倒れかかった。土方が避けたので、打伏しに転がると、動かなくなった。
「撃たれたらしいが、何処を――」
 と、思ったが見当がつかなかった。
「顔で無いと――鎧を射抜く筈は無いと――」
 土方は、洋式鉄砲の威力が何の位のものか、この戦争が最初の経験であった。味方のフランス式伝習隊の兵を見ると、旗本のへっぴり侍ばかりで薩摩のイギリス仕込みだって、これと同じだろう。
(いよいよ斬込みとなったなら鉄砲なんか何の役に――)
 と、思っていたが、半町の距離で、この程度の威力を発揮するとしたなら、研究しておく必要があると思った。
 そして、右手で、肩を掴んで真向けに転がすと、半分眼を開いて血に塗れた口を、大きく開けて死んでいたが、顔には、何処も傷が無かった。
(鎧の胴を通すかしら)
 土方が、胴をみると、小さい穴があいていた。丁度、肺の所だった。
 顔を上げると、御香ノ宮の白い塀の上に、硝煙が、噴出しては、風に散り、散っては、噴き出し、それと同時に、凄まじい音が、森に空に、家々に反響していた。
 いつの間に進んだのか、五六人の兵が、往来に倒れていた。両側の民家の軒下の何処にも、四五人ずつ、槍を提げて、突立っていた。そして、土方が、何か指図をしたら、動こうと、じっとこっちを眺めていた。
 頭の上を、近く、遠く、びゅーん、と音立てて、弾丸がひっきり無しに飛んでいた。周囲の兵は、皆地に伏して、頭を持上げて、坂上の敵を睨んでいたが、誰も立つものは無かった。
 一人が、槍をもって、甲をつけた頭を持上げながら、腹這いに進んでいた。その後方から、竹胴に、白袴をつけ、鉢巻をしたのが、同じように、少しずつ、前進していた。
「危いぞ」
 銃声は聞えていたが、外から、耳へ入るので無く、耳の底のどっかで、唸っているように感じた。前方の地に、小さい土煙が、いくつも上った。
「あっ」
 と、叫んだ声がしたので、振向くと、一人が、額から、血を噴き出させて、がくりと前へ倒れてしまった。
 御香ノ宮の塀に、硝煙の中から、ちらちら敵兵の姿が見えてきた。土方は、その姿が眼に入ると共に
「おのれ」
 と、叫んで、憤怒が、血管の中を、熱く逆流した。その瞬間、七八人の兵が
「出たっ、芋侍っ」
 と、いう叫びと共に、憑かれた獣のように、走り出した。真中の一…

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