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ランス紀行
ランスきこう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「世界紀行文学全集 第一巻 フランス編Ⅰ」 修道社
1959(昭和34)年9月20日
入力者門田裕志
校正者小林繁雄
公開 / 更新2006-08-09 / 2014-09-18
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 六月七日、午前六時頃にベッドを這い降りて寒暖計をみると八十度。きょうの暑さも思いやられたが、ぐずぐずしてはいられない。同宿のI君をよび起して、早々に顔を洗って、紅茶とパンとをのみ込んで、ブルヴァー・ド・クリシーの宿を飛び出したのは七時十五分前であった。
 How to see the battlefields――抜目のないトウマス・クックの巴里支店では、この四月から斯ういう計画を立てて、仏蘭西戦場の団体見物を勧誘している。われわれもその団体に加入して、きょうこのフランス戦場見物に行こうと思い立ったのである。切符は昨日のうちに買ってあるので、今朝は真直にガル・ド・レストの停車場へ急いでゆく。宿からは左のみ遠くもないのであるが、巴里へ着いてまだ一週間を過ぎない我々には、停車場の方角がよく知れない。おまけに電車はストライキの最中で、一台も運転していない。その影響で、タキシーも容易に見付からない。地図で見当をつけながら、兎も角もガル・ド・レストへゆき着いたのは、七時十五分頃であった。七時二十分までに停車場へ集合するという約束であったが、クックの帽子をかぶった人間は一人もみえない。停車場は無暗に混雑している。おぼつかない仏蘭西語でクックの出張所をたずねたが、はっきりと教えてくれる人がない。そこらをまごまごしているうちに、七時三十分頃であろう、クックの帽子をかぶった大きい男をようよう見付け出して、あの汽車に乗るのだと教えて貰った。
 混雑のなかをくぐりぬけて、自分達の乗るべき線路のプラットホームに立って、先ずほっとした時に、倫敦で知己になったO君とZ君とが写真機械携帯で足早に這入って来た。
『やあ、あなたもですか。』
『これは好い道連れが出来ました。』
 これで今日の一行中に四人の日本人を見出したわけである。たがいに懐かしそうな顔をして、しばらく立話をしていると、クックの案内者が他の人々を案内して来て、レザアヴしてある列車の席をそれぞれに割りあてる。日本人はすべて一室に入れられて、そのほかに一人の英国紳士が乗込む。紳士はもう六十に近い人であろう、容貌といい、服装といい、いかにも代表的のイングリッシュ・ゼントルマンらしい風采の人物で、叮嚀に会釈して我々の向うに席を占めた。O君があわてて喫いかけた巻莨の火を消そうとすると、紳士は笑いながら徐かに云った。
『どうぞお構いなく……。わたくしもすいます。』
 七時五十五分に出る筈の列車がなかなか出ない、一行三十余人はことごとく乗り込んでしまっても、列車は動かない。八時を過ぎて、ようように汽笛は鳴り出したが、速力は頗る鈍い。一時間ほども走ると、途中で不意に停車する。それから又少し動き出したかと思うと、十分ぐらいで又停車する。英国紳士はクックの案内者をつかまえて其理由を質問していたが、案内者も困った顔をして笑っているばかりで、詳しい…

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