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女の一生
おんなのいっしょう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「現代日本文學大系 83 森本薫・木下順二・田中千禾夫・飯沢匡集」 筑摩書房
1970(昭和45)年4月5日
初出「女の一生」文明社、1946(昭和21)年10月刊、初演は1945(昭和20)年4月
入力者伊藤時也
校正者土屋隆
公開 / 更新2006-02-04 / 2014-09-18
長さの目安約 25 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

  人

布引けい    知栄の少女時代
堤 しず    野村精三
  伸太郎   職人 井上
  栄二    女中 清
  総子    刑事一
  ふみ    刑事二
  章介
  知栄


     第一幕の一

堤家の焼跡。
昭和二十年十月のある夜。

正面右手寄りに、之だけが完全に残った石燈籠。左手に壕舎の屋根、舞台右手寄りに切石が二つ三つ積んである。高台と見えて地平線の空が月明に明るい。
石燈籠の脇に堤けい、向うむきに坐りこんでいる。じっとして動かない。髪に白いものも多く、戦禍をくぐって来た事とて年よりもぐっとふけて見える。
間。
下手から栄二、けいより一二歳上だが之も最近「或る場所」から出て来たのですこしふけて見える、暫くあたりを見廻しているがけいに気がついて……
栄二 あの……。
けい ……。
栄二 ちょっとお伺いしたいのですが。
けい はあ(と云ってちょっとふり向くがすぐ向うむいてしまう)
栄二 並河町六番地と言うのは確かこの辺だったのですね。
けい 六番地はこの辺でしたがネ、みんな焼けっちまいましたよ。
栄二 全くひどいもんですね、一軒残らずって言う感じですが……。
けい 一軒残らずですよ。何処もかしこもきれいさっぱり。残っているのは蔵の壁と金庫と石燈籠。(立上って壕舎の方へ歩き出しながら)どちらをおたずねなんですか。
栄二 いや、もうよしましょう。こう見渡す限りじゃ、わざわざ焼跡を探して歩くまでもありません。大体覚悟して来たんです。(切石に腰を降して煙草を出して火をつける)
けい (壕舎へ入ってしまおうかどうしようかと迷いながら)遠方からでもいらしたのですか。
栄二 三時間ほど前に着いたんですがね、盛岡からです。
けい 東京中の人がみんな田舎へ田舎へと落ちてゆくのにわざわざ田舎から出ていらっしゃる方もあるんですね。(しゃがんでしまう)
栄二 奥さんは一人でここにお住いなんですか。
けい ええ、泥棒が入ったって取られる物は焼けちまってないし、この年寄をどうしようと言う人もないでしょうし、結局気楽な一人住いです。
栄二 お身寄りの方はないんですか。
けい いいえ、身寄りがないことはありません。土浦の方で、農場をやっている姉妹もいますし、京都で商業をやっている姉妹もいて、東京を引き上げて来い来いとやかましく言ってはくれるんですが今更気がねをしながら他人の世話になる気もしませんし、やっぱり長い間住みなれた処と言うものはこんなになっても離れられないんですよ。
栄二 そういうものですかね。
けい それに娘と孫を諏訪の方に疎開させてあるんです。どうせ都会育ちの娘達が田舎に何時までも落ちつけるものでもなし、何時になるか分りませんが其の連中の帰って来る日の為にもと思ってこんな処に根を下しているんです。
栄二 そりゃなかなか大変ですね。併しこの見渡す限りの焼…

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