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想断々(2)
そうだんだん(2)
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集」 筑摩書房
1969(昭和44)年6月5日
初出「平和 一號」平和社(日本平和會)、1892(明治25)年3月15日
入力者kamille
校正者鈴木厚司
公開 / 更新2005-06-26 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




     兵甲と国家

 兵甲を以て国威を張るは変なり。兵甲は寧ろ国家を弱め、人心を危うするに足るも、以て大に国力を養ひ、列国に覇たらしむる者にあらず。国の本真は気にあり。気若し備はらば業挙らむ。凡そ業なくして勇を談ずるは、仮勇なり。業は以て地歩を堅うし、仮勇は以て自らを危うす。

     請ふ米国を視よ

 米国は迺ち業の国なり。始めより肯て国際間の武威を弄せず。而して各国之を畏る。何が故に畏るゝ、曰く、国民の元気充溢し、百般の業の上に其真勇を睹ればなり。敢て兵甲を以て天下に傲らず、而も諸強国に対峙して遜色ある事なし。

     彼は迫らず

 蓋し彼は悠々として強弱の外に濶歩しつゝあるなり。彼は匠工なり、建設する事を心に留めて他を顧みず。蓋し猛虎も餓ゆるが故に他を攫す、然れども何の日か猛虎の全く餓ゆるなきを得む。猛虎の野に吼ゆるや、其音懼る可し、然れども、其去れる跡には、莫然一物の存するなし、花は前の如くに笑ひ、鳥は前の如くに吟ず。彼の匠工に至りては然らず、其建設する所一として空しきはなし。彼れ能く堅固なる鉄檻を作る事を知る、彼れ能く猛虎を捕ふるの術を知る。猛虎も遂に幾間の隘牢に甘んぜざるを得ざるの時なしとせんや。

     憐れむ可きは戦病国

 仏独相対して兵備日に厳なり。而して其中間に[#挿絵]まれたる以太利は遂に如何ならむ。邦運久しく疲れて産業興らず。民多くは一種固有の疾疼に困しむ。而して国境を守るの兵は日に多く、痩せたる民衆に課するの税斂は月に加ふ。先に拿翁の蹂躪に遭ひ、今後更に慮るところあり。昔日暴風雨を凌ぎ、疾雷閃電の猛威を以て、中原を席捲し去りたる夢は今何処にかある。平和の君、平和の君、切に此邦を憐れまれん事を願ふ。

     闘犬

 戦ひに死して背を敵に向けず、其勇は実に嘉すべし。然れども戦ふ為に産れ、戦ふ為に仆る可きは、夫れ仏国か。一大魔ありて人間界を支配するとせば、彼は仏国を以て一闘犬となしつゝあるなり。何となれば仏人は国利の為に戦ふよりも、寧ろ戦ひの為に戦ふ。平和、平和、遂に爾を煩はさざるを得ず。
(明治二十五年三月)



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