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プランク先生の憶い出
プランクせんせいのおもいで
作品ID43571
著者長岡 半太郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「科學朝日 2月號」 朝日新聞東京本社
1948(昭和23)年2月1日
初出「科學朝日 2月號」朝日新聞東京本社、1948(昭和23)年2月1日
入力者小林徹
校正者kamille
公開 / 更新2006-10-25 / 2014-09-18
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 物理學は19世紀の末から20世紀の初めにかけ革新的衝撃を受けた。クルツクスの輻射物 J・J・トムソンその他の放電攻究 電子の發明などは舊式の説明では齒に懸らず 皆當惑している際 相前後してエツキス線の發見あり また放射性物質の存在を確め 益々迷宮に入らんとする頃開拓された電波通信は 難なくマツクスウエルの電磁論から明瞭なる解釋と指導とを得て 數年間に大なる發展を遂げた。
 マツクスウエルの所論によれば 電波は光波の續きである故 その性質は同じである。電波が歐米間に往復するも當然である。然るに電磁論は正確であろうが 吾人が日常觀察している黒体を熱して發する光 若しくは輻射熱はどんな法則に從つて發散しているかの問題がまだ解釋されていない。スペクトル分析が發明されて以來 久しく蟠つている難題であつた。プランク先生が初めてその解題を與えて 遂に新派の基礎とする量子論の發端に緒を導いたのである。
 先生がベルリン大學に呼ばれた頃 實驗物理學者が腐心していた研究は 黒体が温度の上昇に從い輻射する光波の波長に關する測定であつた。いわゆる黒体なるものは何であるかは キルヒホツフが光の吸收と發散に關する論文に既に明示したから困難はなかつたが これを如何なる物質で造るかの問題が横たわつていた。辛うじてこれを征服して理論に移らんとすれば 更に難關を生じた。先生は講習においてキルヒホツフのスペクトル分析發表當時の論文を讀ませたが 先生も大いに研鑽していたのである。
 1900年に至り破天荒の著想を披瀝して學界を驚かし 初めて量子論の濫觴を開いた。從來エネルギは連續性を帶びると推定せられたが 先生の所説によれば 周波數 ν なる光波のエネルギは自然の恒數 h と ν を掛けた hν であつて 恰も通貨が錢位を單位としてその倍數で通用しているように 光波エネルギの單位即ち光量子は hν であるとすれば 輻射則を難なく解決できるを示し 遂にプランク黒体輻射則を發表して學界の蒙を啓いたのである。しかるに連續性を盲信していた學者達はこのような光量子のあることを 夢幻に似たりと批判して容易に許容しなかつた。殊に光は 不思議なエーテルの振動であると信じ來つた學者には 思いがけ無き聳動であつた。また革新であつた。やがて年少氣鋭の學者は これに賛同するもの幾多現われ プランク恒數 h を利用して 物理學と化學とにおいて諸問題を解釋するに至り益々聲價を揚げた。中にもアインシユタインは當時不可思議に思われた光電作用を只一行の方程式で演繹するを得たのは 一層の光輝を hν に放つたというべきである。また原子構造はますます具体的に啓發され原子は帶電微子の集合であるから その運動するときは必ず輻射を伴う。それ故 原子論を進捗するに h の效用は偉大なるものがある。然しこれに關する論文を書けば h の現われな…

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