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南太平洋科学風土記
みなみたいへいようかがくふどき
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「海野十三メモリアル・ブック」 海野十三の会
2000(平成12)年5月17日
初出「科学知識」1943(昭和18)年4月号~5月号
入力者田中哲郎
校正者土屋隆
公開 / 更新2005-01-27 / 2014-09-18
長さの目安約 28 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

第一回

     はしがき
 題して南太平洋科學風土記といふが、實は私が報道班員として南太平洋に勤務してゐた時に見聞したあちらの事情を、科學の目を通じて思ひ出すままにくり擴げようといふのである。餘り戰鬪や作戰とは關係のない至極のんびりしたものになるかも知れないが、これは戰鬪報道記ではないのであるから、そのつもりでお讀み捨て願ひたい。
     船醉ひ
 私たちがいよいよ南方へ下ることとなつて内地の港を出發したのは寒い一月の初めであつた。そこで私たちは二萬數千トンもある大きな船に便乘した。この船はそのトン數から見ても分るやうに非常に大きな船である。丁度盥を海に浮べたやうな恰好で、船足も餘り早くない。その上甲板では、普段なら野球が二組ぐらゐ充分出來るくらゐの廣さのものであつた。
 かういふ大きな船に乘つて南へ下つて行くのであるから、われわれ仲間は所謂大船に乘つた氣持になつて、別に大したピッチングやローリングもなく、航海は船醉拔きの至極安全なものであらうと考へてをつた。ところが實際船が港を出て或る海峽を越え、いよいよ太平洋に出たところ、もうそのとたんに仲間の數名はひどい船醉を感じて部屋の中にとぢ籠つたきりとなつた。私は多分その班員たちが出發前に心身ともに大いに疲勞してゐたので、その疲れのせゐで引籠つて居るのだとばかり思つてゐたが、扉を叩いて彼等の枕邊に立つた時、船醉であることを發見して非常に驚いた。なにしろこのやうな大きな船であるから、波が相當荒くても、また大きなうねりがやつて來ても、船はその波の上に乘つて殆んど搖れないで海峽を通り過ぎたので、別に船醉をする餘地がなかつたやうに思ふ。然るにこの仲間たちは確に船醉を催してゐるので、私は船醉の原因がどこにあつたのかと、その意外さに目を見張るばかりであつた。
 そこで私は、倒れてゐる仲間と色々話をして見たところ、當人たちは意外にも海峽あたりで相當船が搖れたといひ張るのだつた。しかもまだその前、船が港にゐる間にも、既に少々胸が變になつたといつてゐた。して見るとこの人たちは船に乘つた瞬間に、船がまだ動いてゐないのにも拘らず船に醉つてしまつたらしい。それに引續き船は海峽で少しばかり搖れたので、いよいよ船醉をひどく催したものらしい。私には全く不思議といふ外ない話であつた。
 しかしよく考へてみると、船がまだ動いてゐないのにその船に乘つたばかりで船醉を感じたといふ話を、前にも聽いたことがあるのを思出した。その話は結局船醉を起させる原因は船の動搖ではなくして、船に於て感じられる異常な雰圍氣や臭ひなどに影響せられるところが多いといふ話であつた。例へば船に乘ると先づ非常に油臭い。これは船が重油を焚いてゐるから、當然油臭い臭氣がするわけである。それから部屋に入るとペンキ臭い。これは船には錆びないやうに天井も壁もみんなペンキを塗つてあるか…

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