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土神と狐
つちがみときつね
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「新修宮沢賢治全集 第十巻」 筑摩書房
1979(昭和54)年9月15日
入力者林幸雄
校正者今井忠夫
公開 / 更新2003-01-13 / 2014-09-17
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     (一)[#「(一)」は縦中横]

 一本木の野原の、北のはづれに、少し小高く盛りあがった所がありました。いのころぐさがいっぱいに生え、そのまん中には一本の奇麗な女の樺の木がありました。
 それはそんなに大きくはありませんでしたが幹はてかてか黒く光り、枝は美しく伸びて、五月には白き雲をつけ、秋は黄金や紅やいろいろの葉を降らせました。
 ですから渡り鳥のくゎくこうや百舌も、又小さなみそさゞいや目白もみんなこの木に停まりました。たゞもしも若い鷹などが来てゐるときは小さな鳥は遠くからそれを見付けて決して近くへ寄りませんでした。
 この木に二人の友達がありました。一人は丁度、五百歩ばかり離れたぐちゃぐちゃの谷地の中に住んでゐる土神で一人はいつも野原の南の方からやって来る茶いろの狐だったのです。
 樺の木はどちらかと云へば狐の方がすきでした。なぜなら土神の方は神といふ名こそついてはゐましたがごく乱暴で髪もぼろぼろの木綿糸の束のやう眼も赤くきものだってまるでわかめに似、いつもはだしで爪も黒く長いのでした。ところが狐の方は大へんに上品な風で滅多に人を怒らせたり気にさはるやうなことをしなかったのです。
 たゞもしよくよくこの二人をくらべて見たら土神の方は正直で狐は少し不正直だったかも知れません。

     (二)[#「(二)」は縦中横]

 夏のはじめのある晩でした。樺には新らしい柔らかな葉がいっぱいについていゝかをりがそこら中いっぱい、空にはもう天の川がしらしらと渡り星はいちめんふるへたりゆれたり灯ったり消えたりしてゐました。
 その下を狐が詩集をもって遊びに行ったのでした。仕立おろしの紺の背広を着、赤革の靴もキッキッと鳴ったのです。
「実にしづかな晩ですねえ。」
「えゝ。」樺の木はそっと返事をしました。
「蝎ぼしが向ふを這ってゐますね。あの赤い大きなやつを昔は支那では火と云ったんですよ。」
「火星とはちがふんでせうか。」
「火星とはちがひますよ。火星は惑星ですね、ところがあいつは立派な恒星なんです。」
「惑星、恒星ってどういふんですの。」
「惑星といふのはですね、自分で光らないやつです。つまりほかから光を受けてやっと光るやうに見えるんです。恒星の方は自分で光るやつなんです。お日さまなんかは勿論恒星ですね。あんなに大きくてまぶしいんですがもし途方もない遠くから見たらやっぱり小さな星に見えるんでせうね。」
「まあ、お日さまも星のうちだったんですわね。さうして見ると空にはずゐぶん沢山のお日さまが、あら、お星さまが、あらやっぱり変だわ、お日さまがあるんですね。」
 狐は鷹揚に笑ひました。
「まあさうです。」
「お星さまにはどうしてあゝ赤いのや黄のや緑のやあるんでせうね。」
 狐は又鷹揚に笑って腕を高く組みました。詩集はぷらぷらしましたがなかなかそれで落ちませんでした。…

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