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兵士と女優
へいしとじょゆう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「「探偵趣味」傑作選 幻の探偵雑誌2」 光文社文庫、光文社
2000(平成12)年4月20日
初出「探偵趣味」1928(昭和3)年7月号
入力者網迫、土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2005-08-12 / 2014-09-18
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 オング君は戦争から帰って、久し振りで街を歩きました。軒並のハイカラな飾窓の硝子に、日やけして鳶色に光っている顔をうつしてみました。高価なネクタイだのチェッコスロバキヤの硝子細工だのを売る店の様子は戦争に行く前とちっとも変っていませんでした。
「ちょいと、ちょいとってば!」
 顔に黄色い粉をはたきつけた派手な様子の娘が、オング君をうしろから呼びとめました。
「おや、ハルちゃんじゃないか。これはよいところで!」オング君は嬉しくなって、そう云いました。
「どうしたの?」と娘は訊きました。
「どうしたのって」――オング君はそこで娘の身なりをよく見ました。「君、いま、ホノルル・カフェにはいないのかい? 僕の手紙見てくれなかったのかい?」
「うん、見た。けれど、ホノルルは夙の昔に辞職しちゃった。知らないのかい?」と娘は云うのです。
「知るもんかさ」
「いやだなあ、ほら、そこのエハガキ屋をごらんなさい。あたしの写真が一っぱい飾ってあるぜ」
「なんだ。キネマの女優になったのか」
「うん。知らないなんて、じゃ、やっぱり戦争に行ってたのは本当だったのね」
 娘は大袈裟に首をふって、感心したような溜息を吐きました。
「本当とも。だから、戦地で態々写真まで撮して送ってやったじゃないか。それに、こんなに真黒になっちゃった」オング君は、まともに娘の鼻さきへ顔をつきつけながら、そう云って笑いました。
 オング君と娘とは、それから何とか云う喫茶店でコーヒーを飲んで腰を据えました。
「活動女優って面白いかい?」とオング君はききました。
「だめさ。お金がないんだもの」と娘は答えました。
「だって、なかなか豪勢なきもの着てるじゃないか」
「盗んだも同然だよ。毎日いろんな奴を欺してばかりいるんだからね。いいきものを着てない女優なんてありっこないの」
「なぜ、スターに月給どっさり出さないのかね。まさか、みんなそう云うわけでもないだろう?」
「お金なんか沢山出さなくたって、女優はめいめいで稼ぐからいいと、会社じゃそう思っているんだもの、お話にならない」
「馬鹿だなあ」
「役者が、馬鹿なのよ」
「じゃあ、なんだって、そんな馬鹿なものになったんだい?」
「それぁ、仕方がないわ。それじゃ、あんたは、また何だって戦になんか行ったの?」
「おとなりのマメリューク・スルタンの国でパルチザン共がストライキを起こして暴れるので鎮めに行ったのさ」
「よけいなことじゃなくって?」
「そんなこと云うと叱られるよ。パルチザンは山賊も同然だから、もしあんまり増長してそのストライキが蔓延でもしようものなら、あの近所にはセシル・ロードだの山上権左衛門なんて世界中の金満家の会社や山などがあるし、飛んだ迷惑を受けないとも限らぬと云うので、征伐する必要があったんだ」
「金満家が迷惑すれば、あんた方まで戦に行かなければならないの?」
「…

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