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栗毛虫
くりけむし
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「長塚節全集 第二巻」 春陽堂書店
1977(昭和52)年1月31日
入力者林幸雄
校正者伊藤時也
公開 / 更新2004-05-27 / 2014-09-18
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 風邪でも引いたかといふ鹽梅に頭がはつきりしないので一旦目は醒めたがまた寢込んでしまつた、恐らく眠りも不足であつたのらしい、みんなはもう野らへ出たのであらう家の内はまことにひツそりして居る、
 霖雨つゞきの空は依然として曇つて居るが、いつもよりは稍明るいのであるから一日は降らないかも知れぬと思ひながらぼんやりと眺めて居つた、
「サブリだもの屹度後には雨だよ、どんな旱でも今日明日と降らなかつたことは無いのだから
 と母はいつた、そんなことも有るものか知らんと自分は只聞き流した、この頃のやうに鬱陶しい時は頭が惡くなつて困る、することがみんな懶い、自分でもこれでは成らんと思つてもやつぱりぼんやりして居る、こんな時には隨分馬鹿々々しいこともやつて見ることがある、少し寒けがするので襯衣を着込む足袋を穿くして居るうちに栗毛虫でも叩き落してやらうと云ふ氣になつた、この栗毛虫といふのは栗の木へ付く虫なのであるが、門のはだかの木(百日紅)へも年々たかつてしやうがない、長さが三寸もあつて白く稍々青みを帶びた肌へ房々とした白毛を生じて居るのだから毛虫嫌のものには見た計でも心持がよくないだらうと思ふ、はだかの樹は自分がやつと覺えて居る頃植移したので、その頃でも珍らしい樹であつたのださうであるが、今では蘗でさへも立派な花を持つやうになつたのである、しかしこんな大きな毛虫に荒されるのであるから隨分枝が淋しくなつてしまふ、掃いても掃いても樹の下は毛虫の糞が眞黒である、どうしても叩き落して踏み潰してやらなければならない、
 蘗の方は枝が低いので竹竿を持つて行つては折々攻め付けるので大概亡びてしまつた、大きな木になると竹竿ではなか/\屆かないのみならず裏葉の色と毛虫の色とはまがい易いので下からでは容易に分らない、梯子を掛けて登つた、片手には布袋竹の小竿を持つて居るのに足袋を穿いたりしたので、うるほひのあるはだかの樹は滑かで登りにくかつたが漸く頂上まで辿りついた、門の畑はぢき目の下に見えて茄子も瓜も豆の這つたのもよく分かる、畑のさきの林から隣村の竹まで見える、いま/\しい栗毛虫はそこにもこゝにもぢつとして動かないで居る、いきなり叩いてやるとぢきに落ちる奴もあるが、大概尻のところでつかまつた儘ぶらつと下る、二つ三つ續けざまに叩くとボタと音がして落ちる、枝から枝へ引き攀ぢては叩き落し/\打ち落してしまつた、毛虫は動くことも出來ず木の下一面に散らばつて居る、打つちぎれた小枝も毛虫の糞の上に散らばつて居る、
 四五十匹もある毛虫を潰すのも穢い、どうしたものかと毛虫を掻き寄せながら考へた、この虫の體から立派な糸が引き出せるといふことを聞いたことがあつたがどうすればよいのかと思つて居ると隣の家の婆さんが通り掛つた、自分は婆さんにその方法を尋ねると婆さんは一向知らないといふことであつた、この婆さん酒を飮むこ…

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