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こほろぎの死
こおろぎのし
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第二六巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「少年戦旗」戦旗社、1929(昭和4)年9月
入力者菅野朋子
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-09-24 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ある日、うす寒い秋でしたのに、一匹のこほろぎが単衣を着て、街へ仕事をさがしに出掛けましたが、此間までつとめてゐた印刷工場で足の上へ重い活字箱を落としてけがをして首を切られ、けがをした足は益々ふくれるばかりで、どこにも雇ひ手はありませんでした。夕方になつたのか身体中が寒くなつたので家へ帰りかけますと、突然頭の上に、汚い冷い水が一杯浴びるやうに掛つたと思ふと、気が遠くなつて、倒れてしまひました。
 気が付いて見ると病院の診察台の上に寝てをりました。傍に院長のまだら蜂が立つてゐて、
「気がついたか? お前は何処の何者だ? 風邪ひきと、丹毒といふ熱病だ。大分よくないから入院だ。入院料は一日二円五十銭だがあるかね?」
 こほろぎはお金がないのでびつくりして帰らうとしましたがぐつたりして起き上ることも出来ないので
「私はお金がないんですが、先生、足が立たないので帰れませんから休まして下さい。」
「君一人の病院ぢやないんだ。一人を只で置いたら、みんな只でおかねばならなくなる。病院にはいるのに入院料がいる位の事は子供でも知つてることだ。それにお前はキリスト教信者ぢやないだらう。」
「何だかひどく苦しくて堪りませんからもう一二時間休ませて下さいませんか。」
「一二時間? もう三十分もすると、わしは街へ伝道に行かねばならないから、待つてやれない。帰り給へ。君よりももつと重い病気でも、我慢してゐる人間はいくらでもあるんだ。」
 院長は、玄関番の芋虫に、こほろぎを外に連れて行くやうに言ひつけました。芋虫は門の日の射さない所にしやがんで一日中下駄の出し入れをしてゐるので、黴菌と埃を吸ひ込んで肺病になつて竹のやうに真青な顔をして足は脚気といふ病気のためにふくれ上つてゐるので、五あしに一度はころびさうになりました。そして、こほろぎを診察台から下さうとしましたが、身体中がしびれて力が出ないのでした。院長はじりじりして、
「早くやれ、時間がないんだ。仕様のない弱虫だな。薬局生の尺取虫を呼んで来い。」
 丁度その時尺取虫は薬局で、ある金持の鈴虫のお嬢さんのシヤツクリ止めのお薬を調合してゐましたが、院長に呼ばれたのであはてて薬の分量を二倍も入れてしまひました。
 尺取虫は院長のお気に入りの男で、歩く時に非常に変な恰好をして身体を伸ばしたり縮めたりするのですが、それが、虫の仲間では恰好がよいといふ事になつてゐるので、尺取虫は年中、薬を調合しながら、横に鏡をかけておいて、髪をなでつけたり、顔をふいたり、ひどくおしやれでした。
 こほろぎは益々身体の工合が悪くなつたやうに思ひましたので尺取虫に
「院長さんに願つて暫く置いてもらうやうにして下さいませんか。お願ひです。」と申しました。尺取虫はこほろぎの汗くさい、よごれた着物をじろ/\見て顔をしかめました。
「いゝ加減に帰つたらいゝぢやないか。君一人にか…

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