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さがしもの
さがしもの
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第九巻」 ほるぷ出版
1977(昭和52)年11月20日
入力者菅野朋子
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-08-30 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 文吉は、ある夏休の末のこと、親不知子不知の海岸に近い、従兄の家へあそびに行きました。
 そして、毎日従兄と一緒に、浜へつれて行つてもらつて、漁夫たちの網をひくのを見たり、沖の方に、一ぱいにうかぶ帆舟を眺めたりしました。磯にうちよせてくる小波に、さぶ/\足を洗はせながら、素足で砂の上を歩くのは、わけてたのしいことでした。
 二三日するうちに、文吉は、すつかり、海になれました。従兄につれてもらはなくとも、ひとりで浜へ出かけるやうになりました。
 ある日のこと、朝御飯をたべると、すぐに、文吉は浜へ出かけて行きました。からりとよく晴れた日で、お日さまは、沖の方を、あかるくてらしてゐましたけれど、近く山を背負うた浜のあたりは、まだひや/\した蔭になつてゐました。
 やがて、お日さまの光は、沖の方からだん/\岸へ近づいてきました。砂地一めん、パツとあかるくなりました。文吉は、いつさんに、そのあたたかい光の方へ駈けて行つて、岩の出鼻をまがつたとき、どんとぶつかつたものがありました。それは笈づるを背負うた、一人のおぢいさんでした。文吉もおぢいさんも、一しよに砂の上に、ころげました。そして起きあがるときには、文吉がおぢいさんに抱きおこされてゐました。
「ヤレ/\かんべんしてくれよ。わしは、今一しんに、さがしものをしてゐたのでのう。」
 おぢいさんは、しはがれ声でいひながら、文吉のきものについた、砂をはらつてくれるのでした。文吉は、びつくりした顔つきで、おぢいさんのするままになつてゐました。
 おぢいさんは、もはや六十あまりの年ごろで、額にふかい皺がきざまれて、目はおちくぼんでゐました。おぢいさんは、文吉の顔を見て、
「ウム、よいお子ぢや。」
といひました。そのまま、後をふりかへるでもなく、とぼ/\歩いて行きました。
 お日さまは、山の上に高くのぼりました。砂地はぽか/\あたたかくなりました。文吉は岩のかげに寝そべつて、
「へんなお爺さんだな。一体何をさがしてゐたのかな。」
 そんなことを考へてゐましたが、白帆のうかんだ、うつくしい海のながめは、すつかり、文吉の心をうばつてしまひました。
 それから、一時間ばかりもたつたころでした。
 文吉は、砂地の上に寝そべつたまま、むしんに、口笛を吹いてゐました。海は大そうしづかで、時たま、磯波がザザアーと、うちよせる音がきこえます。文吉は、じぶんの口笛の調子と、それに入りまじつてくる海の唄に、ぼんやりと、聞き入つてゐましたが、そのとき、なむあみだぶつ/\と、聞きおぼえのあるしはがれ声が、きこえました。文吉は、はねおきました。
 もう遠く、行つてしまつたことゝ、おもつてゐた笈づるのおぢいさんが、また、やつてきたのでありました。
「どうも、心のこりでのう。もう一度さがしにひきかへしてきた。」
 おぢいさんは云ひながら、何か一しんに、さがし出…

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