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時男さんのこと
ときおさんのこと
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第九巻」 ほるぷ出版
1977(昭和52)年11月20日
初出「童話」コドモ社、1924(大正13)年5月
入力者川山隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2013-12-17 / 2014-09-16
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 時男さん――それは私の幼な友だちの名まへです。年は三つ違ひで、私が尋常科三年生の時、時男さんは六年生でありました。だから、お友だちといふよりも、まあ兄さんのやうなものでした。
 私は、父と母と三人暮しで、町はづれの借家に住んでゐました。そこから、父は町のお役所へ、毎日通つてゐました。時男さんの家は、私の家から三軒目の隣でした。私が三年生になつたばかりの頃、時男さんは、外からそこへ移つて来たのであります。時男さんの家は、私と同じやうに父母と三人暮しで、そのお母さんといふ人は、いつ見ても大そうきれいな身なりをしてゐました。それは時男さんにとつては、ほんとのお母さんでない、といふことを、時男さんがたが隣へ移つて来た時、私は母から聞きました。
 時男さんは、移つて来た次の日から、私と同じ学校へ通ひました。けれども、二人は組が違ひましたし、学校のかへりも私の方がいつも早くありましたので、一緒になることは滅多にありません。朝起きて、庭さきで顔を洗ひながら、時男さんの家の方を見ると、竹箒で外を掃いてゐる時男さんの姿が見えることがあります。そんな時は、互に顔を見合せて、ニツコリします。けれどたゞそれだけのことで、始めのうちは二人は別に親しい仲ではありませんでした。
 時男さんと友だちになつたいとぐちは、ほんの一寸したことです。何でも土曜日のことで、雨あがりの道が、大そうぬかつてゐました。学校から家へ帰る途中、少しの間田圃の中の道を通るのでありますが、私はそこで、下駄の鼻緒を切つてしまひました。連はないし、どうしたらよいだらうかと、しばらく佇んでゐました。すると、そこへ時男さんが来ました。やはり学校がへりで(その日は土曜日だから、かへり時間が同じだつたのです)鞄を肩にかけて何か小声で唱歌をうたひながらやつて来ましたが、私を見て、
「緒が切れたの?」
と云ひました。私がうなづきますと、
「一寸待つてゐな。」
と云つて、時男さんは、じぶんの腰につけてゐた手拭の端を引き裂いて、私の前へかゞみました。
「肩につかまつてゐな。」
と云ひますので、私は片足を持ちあげて、時男さんの肩によりかかつてゐますと、
「もういゝよ。」
と云ひました。時男さんは、手早く下駄の緒をすげてくれました。私が下駄を履きなほしますと、時男さんは、なぜか顔を赤くして不意に駈け出しました。一度私の方をふりかへつて、それなり駈けて行つてしまひました。
 私は家へかへつて、時男さんから下駄の鼻緒をすげてもらつたことを、母に話しますと、
「それはよかつたね。今度行き逢つたら、遊びにいらつしやいつてお云ひよ。」
と母は云ひました。
 昼御飯をしまふと、私は門口へ出て、何か待ち心で時男さんの家の方を見てゐました。しばらくたつと、くゞり戸があいて出て来たのは時男さんでした。風呂敷包をさげて、どこかへ、使ひに行くらしく、私の家…

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