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闇桜
やみざくら
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「新日本古典文学大系 明治編 24 樋口一葉集」 岩波書店
2001(平成13)年10月15日
初出「武蔵野 第一編」1892(明治25)年3月23日
入力者土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2007-09-04 / 2014-09-21
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

    (上)

 隔ては中垣の建仁寺にゆづりて汲かはす庭井の水の交はりの底きよく深く軒端に咲く梅一木に両家の春を見せて薫りも分ち合ふ中村園田と呼ぶ宿あり園田の主人は一昨年なくなりて相続は良之助廿二の若者何某学校の通学生とかや中村のかたには娘只一人男子もありたれど早世しての一粒ものとて寵愛はいとゞ手のうちの玉かざしの花に吹かぬ風まづいとひて願ふはあし田鶴の齢ながゝれとにや千代となづけし親心にぞ見ゆらんものよ栴檀の二葉三ツ四ツより行末さぞと世の人のほめものにせし姿の花は雨さそふ弥生の山ほころび初めしつぼみに眺めそはりて盛りはいつとまつの葉ごしの月いざよふといふも可愛らしき十六歳の高島田にかくるやさしきなまこ絞りくれなゐは園生に植てもかくれなきもの中村のお嬢さんとあらぬ人にまでうはさゝるゝ美人もうるさきものぞかしさても習慣こそは可笑しけれ北風の空にいかのぼりうならせて電信の柱邪魔くさかりし昔しは我も昔と思へど良之助お千代に向ふときはありし雛遊びの心あらたまらず改まりし姿かたち気にとめんとせねばとまりもせで良さん千代ちやんと他愛もなき談笑に果ては引き出す喧嘩の糸口最早来玉ふな何しに来んお前様こそのいひじらけに見合さぬ顔も僅か二日目昨日は私が悪るかりし此後はあの様な我儘いひませぬ程におゆるし遊ばしてよとあどなくも詫びられて流石にをかしく解けではあられぬ春の氷イヤ僕こそが結局なり妹といふもの味しらねどあらば斯くまで愛らしきか笑顔ゆたかに袖ひかへて良さん昨夕は嬉しき夢を見たりお前様が学校を卒業なされて何といふお役か知らず高帽子立派に黒ぬりの馬車にのりて西洋館へ入り給ふ所をといふ夢は逆夢ぞ馬車にでも曳かれはせぬかと大笑すれば美しき眉ひそめて気になる事おつしやるよ今日の日曜は最早何処へもお出で遊ばすなと今の世の教育うけた身に似合しからぬ詞も真実大事に思へばなり此方に隔てなければ彼方に遠慮もなくくれ竹のよのうきと云ふ事二人が中には葉末におく露ほども知らず笑ふて暮らす春の日もまだ風寒き二月半ば梅見て来んと夕暮や摩利支天の縁日に連ぬる袖も温かげに。良さんお約束のもの忘れては否よ。アヽ大丈夫忘すれやアしなひ併しコーツと何んだツけねへ。あれだものを出かけにもあの位願つておいたのに。さう/\おぼえて居る八百屋お七の機関が見たいと云つたんだツけ。アラ否嘘ばつかり。それぢやア丹波の国から生捕つた荒熊でございの方か。何うでもようございますよ妾は最早帰りますから。あやまつた/\今のはみんな嘘何うして中村の令嬢千代子君とも云れる人がそんな御注文をなさらう筈がない良之助たしかに承はつて参つたものは。ようございます何も入りません。さう怒つてはこまる喧嘩しながら歩行と往来の人が笑ふぢやアないか。だつてあなたが彼様なこと許かしおつしやるんだもの。夫だからあやまつたと云ふぢやないかサア多舌て居るうちに小間…

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