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行乞記
ぎょうこつき
副題03 (二)
03 (に)
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「山頭火全集 第三巻」 春陽堂書店
1986(昭和61)年5月25日
入力者さくらんぼ
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2008-04-20 / 2014-09-21
長さの目安約 134 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

死をまへの木の葉そよぐなり
陽を吸ふ
死ぬる夜の雪ふりつもる
生死のなかの雪ふりしきる


十二月廿二日 晴、汽車で五里、味取、星子宅。

私はまた旅に出た。――
『私はまた草鞋を穿かなければならなくなりました、旅から旅へ旅しつゞける外ない私でありました』と親しい人々に書いた。
山鹿まで切符を買うたが、途中、味取に下車してHさんGさんを訪ねる、いつもかはらぬ人々のなさけが身にしみた。
Sさんの言葉、Gさんの酒盃、K上座の熱風呂、和尚さんの足袋、……すべてが有難かつた。
積る話に夜を更かして、少し興奮して、観音堂の明けの鐘がなるまで寝つかれなかつた。

十二月廿三日 晴、冬至、汽車で三里、山鹿、柳川屋(三〇・中)

九時の汽車で山鹿まで、二時間ばかり行乞する、一年ぶりの行乞なので、何だか調子が悪い、途上ひよつこりS兄に逢ふ、うどんの御馳走になり、お布施を戴く。
一杯ひつかけて入浴、同宿の女テキヤさんはなか/\面白い人柄だつた、いろ/\話し合つてゐるうちに、私もいよ/\世間師になつたわいと痛感した。

十二月廿四日 晴、徒歩八里、福島、中尾屋(二〇・上)

八時過ぎて出立、途中ところ/″\行乞しつゝ、漸く県界を越した、暫らく歩かなかつたので、さすがに、足が痛い。
山鹿の宿も此宿も悪くない、二十銭か三十銭でこれだけ待遇されては勿体ないやうな気がする。
同宿の坊さん、籠屋のお内儀さん、週旋屋さん、女の浪速節語りさん、みんなとり/″\に人間味たつぷりだ。

十二月廿五日 曇、雨、徒歩三里、久留米、三池屋(二五・中)

昨夜は雪だつた、山の雪がきら/\光つて旅人を寂しがらせる、思ひだしたやうに霙が降る。
気はすゝまないけれど十一時から一時まで行乞、それから、泥濘の中を久留米へ。
今夜の宿も悪くない、火鉢を囲んで与太話に興じる、痴話喧嘩やら酔つぱらひやら、いやはや賑やかな事だ。

十二月廿六日 晴、徒歩六里、二日市、和多屋(二五・中)

気分も重く足も重い、ぼとり/\歩いて、こゝへ着いたのは夕暮だつた、今更のやうに身心の衰弱を感じる、仏罰人罰、誰を怨むでもない、自分の愚劣に泣け、泣け。
此宿もよい、宿には恵まれてゐるとでもいふのだらうか、一室一燈を一人で占めて、寝ても覚めても自由だ。
途中の行乞は辛かつた、時々憂欝になつた、こんなことでどうすると、自分で自分を叱るけれど、どうしようもない身心となつてしまつた。
禅関策進を読む、読むだけが、そして飲むだけがまだ残つてゐる。
毎日赤字が続いた、もう明日一日の生命だ、乞食して存らへるか、舌を噛んで地獄へ行くか。……
こゝは坊主枕なのがうれしい、茣座枕は呪はれてあれ! こんな一些事がどんなに孤独の旅人を動かすかは、とても第三者には解りつこない。
床をならべた遍路さんから、神戸の事、大阪の事、京都の事、名古屋の事、等、等を教へられる…

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