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塩原多助旅日記
しおばらたすけたびにっき
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」 筑摩書房
2001(平成13)年8月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2006-12-22 / 2014-09-18
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 いや是は若林先生、さア此方へお這入んなさい。どうも久し振でお目に掛りました。裏猿楽町二番地へ御転住になつたといふ事でございますから、一寸お家見舞にあがるんですが、どうも何も貴方のお座敷へ出すやうな話がないので、つい御無沙汰致しました。時に斯ういふ話があるんです。是は貴方も御承知の石切河岸にゐた故人柴田是真翁の処へ私が行つて聞いた話ですが、是は可笑しいて……私が何処へ行つても口馴れてお喋りをするのは御承知の塩原多助の伝だが、此の多助の伝は是真翁が教へてくれたのが初まりだが、可笑しいぢやありませぬか。どういふ訳かといふと、其頃私が怪談の話の種子を調べようと思つて、方々へ行つて怪談の種子を買出したと云ふのは、私の家に百幅幽霊の掛物があるから、百怪談といふものを拵へて話したいと思ふ時分の事で、其頃はまだ世の中が開けないで、怪談の話の売れる時分だから、種子を探して歩いた。或時是真翁の処へ行くと、是真翁が「お前は此頃大層怪談の種子を探しておいでださうだ。」「どうか怪談の種子を百種買出して見たいと思ひます。八代目団十郎や市村羽左衛門の怪談、沢村宗十郎の御殿女中の怪談、岩井半四郎の怪談、其他聞いた事見た事を種々集めてゐるんですが」と云ふと、是真翁が「円朝さん、妙な怪談の種子がある。こりやア面白い怪談だが、お前何を知らないか、塩原多助といふ本所相生町二丁目の炭屋の怪談を」「知りませぬ」「さうかね、塩原多助といふ炭屋の井戸は内井戸であつたさうだが、其家はたいした身代だから、何とかいふ名のある結構な石でこしらへた立派な井戸ださうだ。ところが其の井戸の中へ嫁が身を投げて死んだり、二代目と三代目の主人が気違ひになつたりしたのが、其家の潰れる初まりといふので、そりやア何とも云へない凄い怪談がある」「へー、それはどう云ふ筋です」「委しい事は知らないが、何でも其の初代の多助といふ人は上州の方から出て来た人で、同じ国者が多助を便つて来て、私もお前のやうな大きな身代になりたい、国の家が潰れたから江戸で稼いで、国の家を再興したいと思つて出て来たのだから、どうか資本を貸してくれと云ふと、多助がそりやアいけない、他人に資本を借りてやるやうな事では仕方がない、何でも自分で苦しんで蟻が塔を積むやうにボツ/\身代をこしらへたのでなくては、大きな身代になれるものではないから、兎も角も細かい商ひをして二朱か三朱の裏店へ住つて、一生懸命に稼ぎ、朝は暗い中から商ひに出、日が暮てから帰つて来るやうにし、夜は翌日の買出しに出る支度をし、一時か一時半ほか寝ないで稼いで、金を貯めなければ、本当に金は貯らない。私なども其位な苦しみをして漸く斯ういふ身の上になつたのだ。と云はれて此人も多助のいふことを成程と感心したから、自分も何ぞ商ひをしようといふので、是から漬物屋を初めた。すると相応に商ひもあるから、商ひ高の内より貯めて…

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