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うづみ火
うずみび
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「時代の娘」 興亞日本社
1941(昭和16)年10月22日
初出「女學世界第一卷第十五號定期増刊「磯ちどり」才媛詞藻冬の卷・小説」1910(明治43)年11月号
入力者門田裕志
校正者野口英司
公開 / 更新2010-03-30 / 2014-09-21
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 兩國といへばにぎわ敷所と聞ゆれどこゝ二洲橋畔のやゝ上手御藏橋近く、一代の富廣き庭廣き家々もみちこほるゝ富人の構えと、昔のおもかげ殘る武家の邸つゞきとの片側町、時折車の音の聞ゆるばかり、春は囘向院の角力の太鼓夢の中に聞て、夏は富士筑波の水彩畫を天ねむの後景として、見あかぬ住居さりとて向島根岸の如き不自由は無、娘が望かなひ、かの殿の内君とならば向河岸に隱宅立てゝと望は、あながち河向ひの唄女らが母親達のみの夢想にもあらぬぞかし。
 洗出の木目の立た高からぬ塀にかゝりて、盛はさぞと思はるゝ櫻の大木、枝ふりといゝ物好な一構、門の折戸片々いつも内より開かれて、づうと玄關迄御影の敷石、椽無の二枚障子いつも白う、苔井のきわの柿の木に唯一ツ、光程じゆくした實の重さうに見へる、右の方は萩垣にしきりて茶庭ら敷折々琴の昔のもるゝもゆかし。
 安井別宅との門札、扨は本町のかど通掛りの人もうなづく物持、家督は子息にゆづりて此處には半日の頃もふけし末娘、名さへ愛とよぶのと二人先代よりの持傳家藏はおろか、近頃手に入し無比の珍品、名畫も此娘の爲には者數ならぬ秘藏、生附とはいへおとなし過とは學校に通ひし頃も、今琴の稽古にても、近所の娘が小言の引合は何時も此家の御孃樣との噂聞に附、尚々父親の不憫増なるべし。
 いつもはお庭に松葉もは入時分秋頃から御隱居樣のはさみの音も聞えず、どうかなされた事かと拾八九の赤ら顏紫めりんすと黒の片側帶氣にしつゝめづら敷車頼に來たお三をつかまえて口も八町手も八町走るさすが車屋の女房の立咄、どうして/\御庭いぢり所か御本宅にては御取込で御目出度けれど、此方樣では秋からかけて孃樣の御病氣、御隱居樣の御心配それは/\實に御氣の毒でならぬ、今年は菊も好出來たけれど御客も遊ばさぬ位、御茶の會御道具の會、隨分忙敷時なれどまるで、火が消たやう、私らも樂すぎて勿體無早く全快遊ばすやうにと祈つては居けれ共、段々御やつれなされてと常にも似ず凋るゝに、それは/\知ぬ事とて御見舞もせなむだがさぞまあ旦那樣は御心配、御可哀想に早く御全快おさせもふし度、そして又御本宅の御取込とは御噂の有た奧樣の御妹子が御方附になるの、彼宅は御目出度事さぞ此宅の旦那樣もどんなにか御うらやま敷だろふねとの同情、ほむに御隱居樣も御出掛遊ばすのであつた、急で御頼申升よ御藥取に[#挿絵]らねばとかけ行に、女房も無言で塵除はづして金紋の車念入に拂、あづかりの前掛てうちん取揃えれば亭主の仕度も出來ぬ、今迄は無沙汰したのが面目無何と御見舞言た物やらと、獨言引出したとたんがら/\と淺草の市歸か勢よく五六臺、前後して通ぬけぬ。
 風は寒が好天氣淺草の觀音の市も大當、川蒸汽の汽笛もたえずひゞく、年の暮近し世間は何と無ざわめきて今日はいぬの日、明日はねの日とりの日、扨も嫁入ざたの多事今宵本宅の嫁の妹折枝とて廿を一越た此間迄寄宿舍養ち…

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