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暗夜の格闘
あんやのかくとう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「小酒井不木探偵小説選 〔論創ミステリ叢書8〕」 論創社
2004(平成16)年7月25日
初出「子供の科学 二巻三~五号」1925(大正14)年3~5月号
入力者川山隆
校正者伊藤時也
公開 / 更新2006-12-18 / 2014-09-18
長さの目安約 23 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

白金塊の紛失

 紅色ダイヤ事件の犯人は、意外にも塚原俊夫君の叔父さんでしたから、悪漢の捕縛を希望しておられた読者諸君は、あるいは失望されたかもしれませんが、これから私のお話しするのは、先年来、東京市内の各所を荒らしまわった貴金属盗賊団を俊夫君の探偵力によって見事に一網打尽にした事件です。
 十月のある真夜中のことです。正確に言えば午前二時頃ですから、むしろ早い朝といった方がよいかもしれません。一寝入りした私は、はげしく私たちの事務室兼実験室の扉を叩く音に眼をさましました。
「俊夫さん、俊夫さん」
 と女の声で、しきりに俊夫君を呼んでいます。私が、
「俊夫君」
 と言って、隣の寝台に寝ている俊夫君を起こすと、
「知っているよ、ありゃ木村のおばさんの声だ」
 と言って俊夫君は大急ぎで洋服を着て、扉を開けにゆきました。
 木村のおばさんというのは、親戚ではありませんが、俊夫君の家から一町ばかり隔たった所に小さい貴金属品製造工場を持っている木村英吉という人の奥さんで、俊夫君がよく遊びにゆきますから、きわめて親しい間柄なのです。
「俊夫さん、大変です。たった今うちへ泥棒が入って、大切な白金の塊をとってゆきました。早く来てください」
 とおばさんは顔色を変えて申しました。
「どこで盗まれたのですか?」
「工場です」
「まあ、心を落ちつけて話してください。その間に仕度しますから」
 と言って俊夫君は、例の探偵鞄の中のものを検べにかかりました。
 おばさんが息をはずませながら話しましたところによると、昨日津村伯爵家から使いが来て、伯爵家に代々伝わる白金の塊を明後日の朝までに腕輪にして彫刻を施してくれと頼んでいったそうです。
 この白金の塊はこれまで度々盗賊たちにねらわれたものであるから、じゅうぶん注意してくれとのことで、おばさんのご主人の木村さんは、助手の竹内という人と二人で十二時まで仕事をし、それから竹内さんだけが徹夜するつもりで仕上げを急いでおりました。
 ところが、木村さんが寝床へ入って、うとうととしたかと思うと、何か工場の方から異様な物音がしてきたので、早速とび起きて、工場の扉をあけて見ると、中は真っ暗であったが、妙な鼻をつくような甘酸いような臭いがしたので、はっと思って電灯をつけると、驚いたことに助手の竹内さんは細工台のもとに気絶して倒れ、白金の塊が見えなくなっていたそうです。
「すぐ警察へ電話をかけようと思ったのですけれど、夜分のことではあるし、それに、俊夫さんの方が警察の人よりも早く犯人を見つけてくれるだろうと思ったので、お願いにきたんですよ」
 とおばさんは俊夫君の顔をのぞきこむようにして申した。
「おばさん心配しなくてもいいよ。白金の塊はきっと僕が取りかえしてあげるから」
 十分の後、私たちは木村さんのお宅につきました。助手の竹内さんは、その時もう意識を…

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