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コロボックル風俗考
コロボックルふうぞくこう
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「日本考古学選集 2 坪井正五郎集―上巻」 築地書館
1971(昭和46)年7月20日
初出「風俗画報」1895(明治28)年4月~1896(明治29)年2月
入力者Nana ohbe
校正者しだひろし
公開 / 更新2009-06-30 / 2016-02-02
長さの目安約 76 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     コロボックル風俗考(第一回)
理學士 坪井正五郎
       緒言
此風俗考を讀むに先だちて知らざるべからざる事數件有り。此所に列記して緒言とす。
コロボックルとは何ぞ。コロボックルとは元來北海道現住のアイヌ、所謂舊土人が己れ[#「己れ」は底本では「巳れ」]等よりも更に舊く彼の地に棲息せし人民に負はせたる名稱の一なり。然れども此人民の遺物なりとアイヌの言ひ傳へたる物を見るに本邦諸地方の石器時代遺跡に於て發見さるる古器物と同性質にして彼も此も正しく同一人民の手に成りしと考へらるるが故に、余は北海道以外に生存せし者をも人種を等しうする限りは、總てコロボックルなるアイヌ語を以て呼ぶ事となせり。
コロボックルの意義 コロボックルとはコロコニ即ち蕗、ボック即ち下、グル即ち人と云ふ三つの言葉より成れる名稱にして、蕗の下の人の義なり。アイヌに先だちて北海道の地に住せし人民は蕗の葉を以て其家の屋根を覆ひたる故アイヌは彼等に此名を與へたりと云ふ 此名は决して何れの地のアイヌも一樣に知れるものにはあらず。或地方にてはトイチセクルと云ふ名行はれ、或地方にてはトイチクルと云ふ名傳はれり。此他に異名多し。余が殊にコロボックルなる名稱を撰びたるは其口調好くして呼び易きと、多少世人に知られたるとに由るのみ。余は此人民の家は何地に於ても蕗の葉にて葺かれたりと信ずるにはあらす。讀者諸君コロボックルなる名を以て單に石器時代の跡を遺したる人民を呼ぶ假り名なりと考へらるれば可なり。
石器時代遺跡。これ右記述中にて殊に肝要なる言葉なり。念の爲手短に説明せん。我々日本人は現に鐵製の刃物を用ゐ居れども、世界中の人類が古今を通じて悉く然るにはあらず。曾て金屬の用を知らざりし人民も有れば、亦今尚ほ石を以て矢の根、槍先、斧の類を造る人民もあり。事の過去に屬すると現在に屬するとを問はず、人類が主として石の刃物を製造使用する時期をば人類學者は稱して石器時代と云ふなり。アウストラリヤ土人の如きは現在の石器時代人民の一例にして本邦諸地方に石の矢の根、石の斧等を遺したる者は過去の石器時代人民の一例なり。現在の例は一に止まるに非ず、過去の例亦甚多し。隨つて石器時代遺跡の種類も性質も諸所必しも一致するには非ざるなり。他國の事は姑く措き余は先づ我が日本の地に存在する石器時代遺跡の種類をば左に列擧すべし。
一、貝塚。多量の貝殼積み重なりて廣大なる物捨て塲の体を成せるもの。好例東京王子西ヶ原に在り。
二、遺物包含地。地下に石器及び他の石器時代遺物を包含する所。好例埼玉大宮公園内に在り。
三、竪穴。直徑二三間或は四五間の摺り鉢形の大穴。好例釧路國釧路郡役所近傍に在り。

是等は正當に石器時代の遺跡と稱すべきものなれど尚ほ他にも石器時代遺物の發見さるる所あり。これ以上の三種破壞攪亂されたる結果たるに過ぎざるなり。
石器時…

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