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東京市騒擾中の釣
とうきょうしそうじょうちゅうのつり
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「集成 日本の釣り文学 第九巻 釣り話 魚話」 作品社
1996(平成8)年10月10日
入力者門田裕志
校正者土屋隆
公開 / 更新2006-12-04 / 2014-09-18
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 騒擾と違警罪

 明治三十八年九月五日の、国民大会より、「警察焼打」といふ意外の結果を来せしかば、市内は俄に無警察の状態に陥り、これ見よといふ風に、態々袒ぎて大道を濶歩するもの、自慢げに跣足にて横行するもの、無提灯にて車を曳くものなど、違警罪者街上に充ち、転た寒心すべきこと多かりし。
 されば、人心恟々として、安き心も無く、後日、釣船の宿にて聴く所によれば、騒擾の三日間ばかりは、釣に出づる者とては絶えて無く、全く休業同様なりしといふ。左もあるべし。然るに、此の騒々しきどさくさ紛れを利用して、平日殺生禁断の池に釣垂れて、霊地を汚し、一時の快を貪りし賤民の多かりしは、嘆かはしきの至りなりし。当時、漁史の見聞せし一二事を摘録して、後日の記念とせんか。

 釣竿、奇禍を買はんとす

 六日の昼、来客の話に「僕は昨日、危く災難を蒙る所であッたが、想へば、ぞッとする」といふ。「国民大会見物にでも出掛けて……」と問へば、「否深川へおぼこ釣に出かけ、日暮方、例の如く釣竿を担ぎ魚籃を提げて、尾張町四丁目の角から、有楽町に入ると、只事ならぬ騒らしい。変だとは思ッたが、ぶら/″\電車の路に従いて進むと、愈混雑を極めてたが、突然後方から、僕の背をつゝく者が有ッた。振り返ッて見ると、四十ばかりの商人体の男が、『彼方、其様な刀の様な物を担いで通ッたら、飛んだ目に逢ひませう』と注意された。『何か有るのですか』と聞いたら、『今しも、内務大臣官邸はこれ/\で、』と、官民斬りつ斬られつの修羅を話された。『では、袋を外し、竿剥き出しにして、往きませう』と言ふと、『それが好いでせう』と、賛成してくれるので、篤く礼を述べて別れ、それから、竿の袋を剥き、魚籃を通して担ぎ、百雷の様な吶喊の声、暗夜の磯の怒濤の様な闘錚の声を、遠く聞きながら無難に過ぎることが出来た。若し、奇特者の忠告無く、前の様で、うッかり通ッたもんなら、何様な奇禍を買ッたか知れなかッたが」と言へり。危かりしことかな。

 浅草公園の公開? 釣堀

 六日の夜は、流言の如く、又焼打の騒ぎあり、翌七日には、市内全く無警察の象を現はしけるが、浅草公園の池にては、咎むる者の無きを機とし、鯉釣大繁昌との報を得たり。釣道の記念に、一見せざるべからずとなし、昼飯後直ちに、入谷光月町を通り、十二階下より、公園第六区の池の端に、漫歩遊観を試みたり。
 到り観れば、話しに勝る大繁昌にて、池の周囲には、立錐の余地だに無く、黒山の人垣を築けり。常には、見世物場の間に散在して営業する所の「引懸釣」、それさへ見物人は、店内に充溢するに、増して、昨日一昨日までは礫一つ打つことならざしり泉水の、尺余の鯉を、思ふまゝに釣り勝ち取り勝ちし得べき、公開? 釣堀と変りたることなれは、数百の釣手、数千の見物の、蟻集麕至せしも、素より無理ならぬことにて、たゞ、盛なりといふべき光…

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