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平賀源内捕物帳
ひらがげんないとりものちょう
副題山王祭の大像
さんのうさいのおおぞう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本探偵小説全集8 久生十蘭集」 創元推理文庫、東京創元社
1986(昭和61)年10月31日
入力者川山隆
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2008-01-22 / 2014-09-21
長さの目安約 35 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

          普賢菩薩のお白象

 チャッチャッチキチ、チャッチキチ、
 ヒイヤラヒイヤラ、テテドンドン……
「夏祭だ」
「夏祭だ」
「天下祭でい」
「御用祭だ」
「練って来た、練って来た。あれが名代の諫鼓鶏……」
「お次は南伝馬町の猿の山車」
「日吉鷲平の猿の面。あの山鉾ひとつで四千五百両とは豪勢なものでござります」
 ……三番は、平河町の騎射人形、……四番は、山王町の剣に水車、……八番は、駿河町の春日龍神、……十七番は、小網町の漁船の山車、……四十番が霊岸島の八乙女人形‥…
「熊坂」がくる、「大鋸」がくる、「静御前」がくる。
 牛にひかせた見上げるような金ピカの屋台車の下を贅沢な縮緬の幕で囲って、町内の師匠やお囃子連が夢中になってチャッチャッチキチと馬鹿囃し。
 声自慢の鳶が山車に引きそい、顔のうえに扇子をかざして木遣節。
 [#挿絵]やあー、小金花咲く盃で、さいつおさえつお目出たや、大盃の台のみぎわに松植えて、千代さい鶴ひなの鶴の……
 芸者の揃いの手古舞姿。佃島の漁夫が雲龍の半纏に黒股引、古式の侠な姿で金棒突き佃節を唄いながら練ってくる。挟箱を担いだ鬢発奴の梵天帯。花笠に麻上下、馬に乗った法師武者。踊屋台がくる、地走り踊がくる、獅子頭、大神楽、底抜け屋台、独楽廻し、鼻高面のお天狗さま。
 京都の祇園祭、大阪の天満祭、江戸の山王祭、これを日本の三大祭という。
 六月十四、十五日は永田馬場、日吉山王権現の御祭礼。
 山王権現は徳川家の産土神。半蔵門内で将軍家の上覧に入れる例なので、御用祭とも、天下祭ともいう。
 南は芝、西は麹町、東は霊岸島、北は神田。百六十余町から出す山車、山鉾が四十六。ほかに、附祭といって、踊屋台、練物、曳物数さえつばらに知れぬほど。華美を競い、贅を尽して、その美しさは眼を驚かすにいたる。
 辰年六月に日本橋通一丁目、二丁目が年番に当った時、この二ヶ町で八千八百両の費用がかかった。
 揃いの縮緬の浴衣に赤無垢綸子の褌などはお安いご用。山車人形の衣裳に二千両、三千両。女房も娘も叩き売って山車の費用を出し合うのが江戸ッ子に生れた身の冥加。悔むどころか、これが自慢でしようがないので。
 お祭が近づくと、産子町百六十余町は仕事に手がつかない。ようよう花見がすんだばかりというのに、毎夜さ寄合って馬鹿囃しの稽古やら練物の手段。踊屋台の一件、警固木挺の番争いから、揃い衣裳の取極め、ああでもないこうでもないと、いい齢をした旦那衆までが血眼になって騒ぎたてる。
 なかんずく、屋台へはいる師匠をきめる段になると、さすがに女のことだけあってこれがたやすくはおさまらない。狼連がそれぞれ双方に附いて、ぜひとも、うちの師匠をと、神輿ではないが、揉んで揉みぬく。この件ばかりで、いざこざが起ります。
 贔屓すぎての喧嘩沙汰。頭を割られたの、片目になったのという…

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