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外務大臣の死
がいむだいじんのし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「探偵クラブ 人工心臓」 国書刊行会
1994(平成6)年9月20日
初出「苦楽」プラトン社、1926(大正15)年2月号
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2007-10-22 / 2014-09-21
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

       一

「犯人は芸術家で、探偵は批評家であるという言葉は、皮肉といえば随分皮肉ですけれど、ある場合に、探偵たるものは、芸術批評家であるということを決して忘れてはならぬと思います」と、松島龍造氏は言った。
 晩秋のある日、例の如く私が、松島氏の探偵談をきくべく、その事務室を訪ねると、ふと英国文豪トーマス・ド・キンセイの、『美術としての殺人』という論文が話題に上り、にわかに氏は、その鋭い眼を輝かせて語り出したのである。
「あなたは、無論、エドガア・アラン・ポオの『盗まれた手紙』という探偵小説を御読みになったことがありましょう。フランスの某国務大臣が、皇后の秘密の手紙を盗んだので、パリー警察の人々は、一生懸命になって、大臣の居室の隅から隅まで探したけれど、どうしても見つからないで弱っていると、素人探偵オーギュスト・ヂュパンは、警察の人々のやり方を批評して、大臣が詩人であることに気がつかぬから、いくら探しても駄目である、大臣はその手紙を普通の人が隠しそうなところへは決して隠してはおらない。最良の隠し方は実に隠さないで置くことだということを大臣はよく知っているのだといって、易々と手紙を取り返して来ますが、殺人でもそれと同じことでして、数多い殺人者の中には、立派な殺人芸術家がありますから、探偵たるものは、決してそのことを忘れてはならぬと思います。さもないと、犯人の捜索は不可能になり、事件は迷宮に入り勝ちになるのです」
「しかし、犯罪学の上から言うと、一般に無頓着に行われた殺人の方が、計画された殺人よりも却って探偵するに困難だという話ではありませんか?」と、私は反問した。
「無論そうです。計画された殺人では、いわば犯人の頭脳と探偵の頭脳との戦いですから、探偵の頭脳さえ優れておれば、わけなく犯人を逮捕することが出来ます。これに反して、無頓着に行われた殺人は、万事がチャンスによって左右されるのですから、むずかしい事件になると随分むずかしいですけれど、その代り容易な場合には呆気ない程容易です。ところが、もし犯人が文字通りの殺人芸術家であって、故意に無頓着な殺人を行ったとしたならば、それこそ難中の至難事件となるのです」
「故意に無頓着な殺人を行うとは、どんなことを言うのですか?」
「つまり意識して無頓着な殺人を行うことです。一口に言えば最上の機会をとらえて、無鉄砲な、大胆な殺人を試みることです」
 私は松島氏の説明が十分腑に落ちなかった。
「そういうような実例があるものでしょうか?」と私はたずねた。
「沢山あります。一昨年問題となったD外相暗殺事件もその一例です」
 私の頭の中に、一昨年九月二十一日の夜に起った外務大臣暗殺事件の記憶がまざまざと甦った。当時多数の嫌疑者が拘引されたけれども証拠不十分で放免され、その後数ヶ月を経て、内閣が更迭したので、遂に事件は迷宮に入っ…

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