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ドン
ドン
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集7」 三一書房
1970(昭和45)年1月31日
初出「九州日報」1923(大正12)年3月7日
入力者川山隆
校正者土屋隆
公開 / 更新2007-08-08 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




 たいそうあたたかくなりました。
 猫が久し振りにあたたかくなったので縁側に出て見ると、縁側の鉢の中にいる金魚が五、六匹チラチラしています。これは占めた、どうかして取って食べてやろうと思ってジッと鉢の中を狙いました。
 犬がこれを見つけて、これはうまいと思いました。ふだんから憎らしいと思う猫が今日は全く気がつかずにいる。今度こそは引っ捕えてひどい目に合わせて遣ろうと、猫に気のつかぬようにそっとうしろから忍び寄りました。
 二階の窓から坊ちゃんがこれを見つけて、あの憎らしい犬が又猫をいじめてやろうとしている。今日こそは勘弁しないぞと、空気銃にバラ玉を込めて犬のお尻の処をジット狙いました。
 その時お父さまがこれを見つけて、又坊やがいたずらをしている。よその犬に怪我をさせては大変だ。よしよし捕まえて懲して遣ろうと、ぬき足さし足うしろから近寄ってお出でになりました。
 室の隅で縫い物をしていらっしたお母様はお父様の様子に気がついて、どうしたのかと思って窓の外を見ると、猫は金魚をねらい、犬は猫のすぐ後に近寄り、坊ちゃんは犬のお尻を狙って引き金を引こうとし、お父様は坊ちゃんの襟を捕まえようとしておられます。うっかりすると金魚も猫も犬も坊ちゃんもみんなひどい目に合いそうです。お母様はどうしてよいやらわからなくなりました。
 その時にすぐ近所の砲台で耳も裂ける位大きなドンが鳴りました。
 金魚は驚いて石の下へ逃げ込みました。
 猫はガッカリしてうしろをふり返ると、犬がすぐ足もとにいたので驚いて家の中へ逃げ込みました。
 犬はしまったと思って縁側に飛び上ると、空気銃の弾丸が尻尾のさきをカスッたので驚いて逃げて行きました。
 坊ちゃんはガッカリしてうしろを見ますと、お父様が怖い顔をして立っておられたので、
「あれ。堪忍して頂戴」
 と言うなりに空気銃を投げ出して逃げて行きました。
「アハハハハハ」
 とお父様はお笑いになりました。
 お母様はホッとしました。
 それから間もなく金魚は餌を投げて貰いました。
 猫も犬も御飯をいただきました。
 その時お父様もお母様も坊ちゃんも楽しいお昼の御飯を食べていました。



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