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虻のおれい
あぶのおれい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集7」 三一書房
1971(昭和46)年1月31日
初出「九州日報」1925(大正14)年9月13~15日
入力者川山隆
校正者土屋隆
公開 / 更新2007-08-02 / 2014-09-21
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 チエ子さんは今年六つになる可愛いお嬢さんでした。
 ある日裏のお庭で一人でおとなしく遊んでいますと、
「ブルブルブルブル」
 と変な歌のような声がきこえました。
 何だろうとそこいらを見まわしますと、そこの白壁によせかけてあったサイダーの瓶に一匹の虻が落ち込んで、ブルンブルンと狂いまわりながら、
「ドウゾ助けて下さい。ドウゾ助けて下さい」
 と言っています。
 チエ子さんはすぐに走って行ってその瓶を取り上げて、口のところからのぞきながら、
「虻さん虻さん、どうしたの」
 と言いました。
 虻は狂いまわってビンのガラスのアッチコッチへぶつかりながら、
「どうしてか、落ち込みましたところが、出て行かれなくなりました。助けて下さい、助けて下さい」
 と泣いて狂いまわります。
 チエ子さんは笑い出しました。
「虻さん、お前はバカだねえ。上の方に穴があるじゃないか。そう、あたしの声が聞こえるでしょう。その方へ来れば逃げられるよ。横の方へ行ってもダメだよ。ガラスがあるから」
 と言いましたが、虻はもう夢中になって、
「どこですか、どこですか」
 と狂いまわるばかりです。
 チエ子さんは虻が可哀そうになりました。どうかして助けてやりたいと思って、そこいらに落ちていた棒切れを拾って上から突込んで上の方へ追いやろうとしましたが、虻はどうしても上の方へ来ません。うっかりすると棒にさわって殺されそうになります。
 チエ子さんは困ってしまいました。どうして助けてやろうかといろいろ考えました。
 上から息を吹きこんだり、瓶をさかさまにして打ちふったりしましたが、虻はなかなか口の方へ来ません。やっぱり横の方へ横の方へと飛んでは打かり、打かっては飛んで、死ぬ程苦しんでいます。
 チエ子さんは又考えました。
 どうかして助けたいと一所懸命に考えましたが、とうとう一つうまいことを考え出しまして、瓶を手に持ったままお台所の方へ走って行きました。
 チエ子さんは台所に行って、サイダーを飲むときの麦わらとコップを一つお母さまから貸していただきました。
 そのコップに水を入れて麦わらで吸い取って、虻がジッとしているときにすこしずつ瓶の中に吹き込んでやりますと、虻は水がこわいので段々上の方へやって来ました。
 チエ子さんは喜んでもう一いき水を吹いてみますと、どうしたものか虻は又あわて出してブルブルと飛ぶ拍子に水の中へ落ち込んでしまいました。
 チエ子さんはあわてて瓶をさかさまにしますと、水と一諸に虻も流れ出て、ビショビショに濡れた羽根を引きずりながら苦しそうに地べたの上をはい出しましたが、やがて水のないところへ来て羽根をブルブルとふるわしたと思うと、
「ありがとう御座います。チエ子さん。このおれいはいつかきっといたします」
 と言ううちにブーンと飛んで行きました。

「お母さん、お母さん。チエ子は虻…

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