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蟹のしょうばい
かにのしょうばい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「ごんぎつね 新美南吉童話作品集1」 てのり文庫、大日本図書
1988(昭和63)年7月8日
入力者めいこ
校正者もりみつじゅんじ
公開 / 更新2003-01-07 / 2014-09-17
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




 蟹がいろいろ考えたあげく、とこやをはじめました。蟹の考えとしてはおおできでありました。
 ところで、蟹は、
「とこやというしょうばいは、たいへんひまなものだな。」
と思いました。と申しますのは、ひとりもお客さんがこないからであります。
 そこで、蟹のとこやさんは、はさみをもって海っぱたにやっていきました。そこにはたこがひるねをしていました。
「もしもし、たこさん。」
と蟹はよびかけました。
 たこはめをさまして、
「なんだ。」
といいました。
「とこやですが、ごようはありませんか。」
「よくごらんよ。わたしの頭に毛があるかどうか。」
 蟹はたこの頭をよくみました。なるほど毛はひとすじもなく、つるんこでありました。いくら蟹がじょうずなとこやでも、毛のない頭をかることはできません。
 蟹は、そこで、山へやっていきました。山にはたぬきがひるねをしていました。
「もしもし、たぬきさん。」
 たぬきはめをさまして、
「なんだ。」
といいました。
「とこやですがごようはありませんか。」
 たぬきは、いたずらがすきなけものですから、よくないことを考えました。
「よろしい、かってもらおう。ところで、ひとつやくそくしてくれなきゃいけない。というのは、わたしのあとで、わたしのお父さんの毛もかってもらいたいのさ。」
「へい、おやすいことです。」
 そこで、蟹のうでをふるうときがきました。
 ちょっきん、ちょっきん、ちょっきん。
 ところが、蟹というものは、あまり大きなものではありません。蟹とくらべたら、たぬきはとんでもなく大きなものであります。その上たぬきというものは、からだじゅうが毛むくじゃらであります。ですから仕事はなかなかはかどりません。蟹は口から泡をふいていっしょうけんめいはさみをつかいました。そして三日かかって、やっとのこと仕事はおわりました。
「じゃ、やくそくだから、わたしのお父さんの毛もかってくれたまえ。」
「お父さんというのは、どのくらい大きなかたですか。」
「あの山くらいあるかね。」
 蟹はめんくらいました。そんなに大きくては、とてもじぶんひとりでは、まにあわぬと思いました。
 そこで蟹は、じぶんの子どもたちをみなとこやにしました。子どもばかりか、まごもひこも、うまれてくる蟹はみなとこやにしました。
 それでわたくしたちが道ばたにみうける、ほんに小さな蟹でさえも、ちゃんとはさみをもっています。



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