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幕末維新懐古談
ばくまついしんかいこだん
副題51 大隈綾子刀自の思い出
51 おおくまあやことじのおもいで
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「幕末維新懐古談」 岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日
入力者網迫、土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2007-02-22 / 2014-09-21
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 話がずっと後戻りしますが、今日は少し別のはなしをしようかと思いますが、どうですか。
 ……では、そのはなしをすることにしましょう。

 実は、先日来、大隈未亡人綾子刀自が御重体であると新聞紙上で承り、昔、お見知りの人のことで、蔭ながらお案じしていた次第であったが、今朝(大正十二年四月二十九日)の新聞を見ると、お歿なりになったそうで、まことに御愁傷のことである。

 それにつけて、この頃、綾子刀自の素性のことについて、いろいろ噂を聞いたり、また新聞などで見たりしますと、元、料理屋の女中であったなど、誰々の妾であったなどというようなことが伝えられているが、そういうことは皆間違いで一つも拠処がない。こういう噂は何処から出たものか。察するに綾子刀自が大隈家へ嫁がれた時分は、ちょうど何もかも徳川瓦解の後を受けたドサクサの時代で、その頃の政治家という人たちは多くお国侍で、東京へ出て仮りの住居をしておって、急に地位が高くなり政治家成り金とでもいうような有様で、何んでもヤンチャな世の中……殺風景なことが多く、したがってその配偶者のことなども乱暴無雑作なことがちで、芸妓、芸人を妻や妾にするとか、女髪結の娘でも縹緻がよければ一足飛びに奥さんにするとかいう風であったから、こういう一体の風習の中へ綾子刀自のことも一緒に巻き込まれて、同じような行き方であったろうなど推測し、右のような噂が今日も伝えられるのであろうかと思われますが、これは全く大間違いであるのです。
 という訳は、その因縁を話しませんと分りませんが、実は、私は、昔、綾子刀自の娘盛りの時代を妙なことで能く知っている。この事を話せばおのずから綾子刀自の素性が明らかになることで、何時か、この事を何かのついでに話して置くか、書き留めて置きたいと思っておったことであったが、今日はちょうどよい折とも思いますから一通り話しましょう。

 幕府瓦解の後は旗下御家人というような格の家が急に生計の方法に困っていろいろ苦労をしたものであった。
 その頃、旧旗下で三枝竜之介という方がありました。この方の屋敷は御徒町にあった。立花家の屋敷を前にした右側(上野の方から)にありました。禄は何程であったか、七、八百石位でもあったか内証豊かな旗下であった。
 この三枝家が私の師匠東雲師の仕事先、俗にいう華客場であったので、師匠は平常当主の竜之介と極懇意にしておりました。その中旗下は徳川の扶持を離れ、士族になって、世の中の変るにつれ今までの武家の格式も棄て、町人百姓とも交際をせねばならなくなったので、私の師匠は従前よりも一層親しく三枝家の相談を受けておったことでしたが、三枝家でも世変のためにいろいろ事情もあって、今までの屋敷が不用になったから、それを売りたいというので師匠は相談を受けておった。けれども、他に好い買い手もなかったが、師匠がその屋敷を買い取る…

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