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菜の花
なのはな
副題――春の新七草の賦のその一ツ――
――はるのしんななくさのふのそのひとつ――
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「桃」 中央公論社
1939(昭和14)年2月10日
初出「東京日日新聞」1936(昭和11)年4月16日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2009-01-26 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




水油なくて寢る夜や窓の月(芭蕉)
 の句は、現代のものには、ちよつとわかりにくいほど、その時代、またその前々代の、古い人間生活と、菜の花との緊密なつながりを語つてゐる。いま、わたしたちが菜の花を愛するのもさうした祖先の感謝をもつて、心の底に暖かみを感じてゐるのかも知れない。日の光りと、月光と、薪の火と、魚油しかなかつた暗いころの、燈し油になるなたねの花は、どんなに大切なものであつたらう。そのほかの、菜の花とよばれる幾種類のものが、みんな、われわれの生活に必要であることは、今日でも變りはない。
 菜の花は、誰にも親しみをもたれてゐる一般的な花だ。葉の中にかじかんでゐるまだ青い時分から、伸びきつて、種になつてゆく末まで、一莖の姿もよければ、多ければ多いほどよく、花の集まつた美觀は、春の新七草のなかでも、豐けさにおいて第一といへよう。大きな眺めでありながら、平凡な、民衆的美觀ともいへよう。
 古くは雪間の若菜として、いさぎよい青さと珍しさをめでられたが、近代人の感覺は、春の色の基調として菜の花の「黄」を推奬する。灼熱の夏日の紅に移る一歩前、陽光さんさんと降りくだつて、そこに菜の花は咲きつづき、和ぎと喜びの色に照りはえ、展べひろげられ、麗かに、閑に國を包んで、朝に明け、夕べに暮れてゐる。
 菜の花は平和を好む蒼人艸に似て、親しみぶかい花だ。
(「東京日日新聞」昭和十一年四月十六日)



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