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ヂユパンの癖とヴァンスの癖
ヂユパンのくせとヴァンスのくせ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「平林初之輔探偵小説選Ⅱ〔論創ミステリ叢書2〕」 論創社
2003(平成15)年11月10日
初出「新青年 第一一巻第一一号夏季増刊号・新選探偵小説傑作集」1930(昭和5)年8月号
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-12-12 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 デュパンという男は申すまでもなくポーの小説に出てくる探偵である。もっともこの探偵の出てくる小説は、「モルグ街の殺人」と「盗まれた書類」と「マリー・ロジェ奇談」とこの三つしかない。探偵小説には必ず探偵が必要であるというヴァン・ダインの筆法から言うと、ポーの探偵小説は三つしかないわけだ。
 デュパンは、ホームズやルパンなどの紳士とは非常に変わった探偵である。パリのサン・ジェルマンの物淋しい、怪しげな家に住んでいて、絶対に世間の人と交際しないで、他人からおとなしい狂人と思われるような生活をしていた。多くの探偵に見る、陽気な、健全な常識的な明るさは彼には求むべくもなかった。
 彼の誰でも知っているいちばん有名な癖は、夜が非常にすきだという妙な癖であった。ところが、地球は彼の意志にもかかわらず二十四時間に一度自転するので、一日の半分だけは太陽におもてを向けざるを得ない。そこで、彼は夜を模造することを考えついた。といっても別にむずかしい手段は必要でない。ただ光をさえぎりさえすれば、局部的に夜ができるわけだから。彼は、日中は古ぼけた建物の厚い鎧戸をすっかりしめて昼の光をさえぎり、その中に強い匂いのする二本の蝋燭をたてて物を書いたり読んだり同居しているも一人の男と話をしたりして過ごし、夕暮れをつげる鐘の音をきくと二人で街へ散歩にでかけるという風だった。
 彼がものを考える考え方はいかにも分析的で、これは後にコナン・ドイルのシャーロック・ホームズに模倣されたところのものだ。二人で道を歩いていた時、彼は突然相手の考えている複雑な連想のつながりを言いあてる。相手は、自分でも気がつかずにシャンテリーという男が小男で悲劇役者にはむかないことを考えていたのだ。彼は――シャンテリー、オライオン、ニコラス博士、エピキュラス、截石法、往来の敷石、果物屋――という風に連想したに相違ないと相手の心を当の相手よりもはっきりと分析する。
 どうもこのデュパンという男は気味のわるい男だ。チェスタトンのブラウンから愛嬌をとって、その代わりに陰気なところを加えたような型で、頭はひどくよいが、そのよさが、満べんなく円満によいというのではなくて、どこか片輪のようなよさである。法律の擁護者である探偵などよりも、法律の破壊者に適している。
 無論この男は、他の多くの彼のストーリーの主人公と同じように、彼のデュプリケーション〔複製〕で、どうかすると病的な程に理論的になり、それがどうかしたはずみに神秘的に飛躍する不健康の強さというものがありとすれば、それがポーのつくり出した性格であり、デュパンもその一つの例である。
 ヴァン・ダインは、ファイロ・ヴァンスという素人探偵を使っている。彼は、最近本誌〔『新青年』〕にも探偵小説家の心得を書いているし、その他にも探偵小説について書いたものがある。いわば探偵小説の立法者である…

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