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行乞記
ぎょうこつき
副題09 山口
09 やまぐち
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「山頭火全集 第五巻」 春陽堂書店
1986(昭和61)年11月30日
入力者小林繁雄
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2009-03-02 / 2014-09-21
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 七月廿八日

六時すぎ出立、道はアスフアルトの一路坦々。朝風が法衣の袖にはらんで涼しい。
九時から山口市の裏通行乞二時間。
鈴木の奥さんに御挨拶する、思ひがけなくお布施を頂戴して恐縮した。
野田神社、豊栄神社へ参拝、境内は掃目もあざやかに蝉しぐれのなごやかさ。
山口県庁の建物はおちついてゐて好きだつた、背景の山のすがたも気にいつた。
サベリヨ記念碑を観た。
寺内文庫で新聞を読みながら休む。
二時から六時まで、宮野仁保を行乞して仁保上郷の河内屋といふ安宿へ泊つた、山村のしづかな家でうれしかつた、行程五里。
木賃 三十銭。
夕飯(鯖の煮付、茄子の煮込、沢庵漬) 朝食(味噌汁、煮豆、沢庵漬)
所得(銭三十銭、米三升)
今夜はお布施のおかげで、日本酒三合いたゞく。
△途上、鮮人の一家族に心を惹かれた、世帯道具を背負うて移動する道中らしい、蒲団、飯釜、行李、子供、そして弱者劣敗者である彼等は私にまで挨拶した、私は彼等に対して好感よりも哀感を持つた。
或る農家で、おかみさんが皿に米をいつぱい盛つてくれた、くれやうが多すぎるから何かあるなと思つてゐたら、果してさうだつた、小さい子に鉄鉢をいたゞかせてくれといふ、消災呪を唱へてあげた、此頃は鉄鉢をさゝげてあるく坊主も稀だし、また子供が頭剃を嫌はない禁厭として鉄鉢をいたゞかせてくれといふ事も稀である。
△今日はめづらしくコヤトといふ方言を聞いた、コヤトは餓鬼とおなじく、子供に対する親愛と軽蔑とを意味する言葉である、ホイトといふ方言のやうにおもしろいと思ふ。
・生きのびて蔦のからんだ門のうち
 炎天の地べたへ人間をゑがく
・水に水草びつしり
・ぼろきてすずしい一人があるく
・蝉しぐれあふれるとなくあふれてゐる水
・ここが国ざかひで涼しい風
 山かげの夕凪の魚がはねるさゞなみ
・ながい豆も峠茶屋のかなかな
 河鹿にはおそかつた蜩の安宿で
 枕がひくうて水音がたえない一夜
 たつた一軒家の白木槿咲いてゐる
・水瓜はごろりと日ざかりの畑
   (乞食坊主の頭陀のおもさよ)
 水音のかなかなの明けてくる
・窓は朝蜘蛛のうごかない山がせまり
 ながれ、寝苦しかつた汗をながす
・みんなたつしやでかぼちやのはなも
・こどもばかりでつくつくぼうし
・家あれば水が米つく
・どこまでついてくるぞ鉄鉢の蠅
・家がとぎれると水音の山百合
 煙が山から人間がをる
 仲よく朝の山の草刈る
・いたゞきのはだかとなつた
・こゝからふるさとの山となる青葉
 山奥の田草とる一人には鶯
 人にあはない山のてふてふ

 七月廿九日

曇、六時から行乞、ずゐぶん暑い、流れに汗を洗ふ、山がちかく蝉がつよく、片隅の幸福とでもいふべきものを味ふ。
今日の道はよかつた、山百合、もう女郎花が咲いてゐる、にい/\蝉、老鶯、水音がたえない、佐波川はなつかしかつた。
あの無限者のうち…

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